「AI導入はトップのコミットが極めて重要」 ファミマに学ぶ現場への落とし込み
「AI Innovators Forum 2025」の基調講演に登壇したのは、コンビニエンスストアのフランチャイズ事業を展開するファミリーマートだ。同社は、国内約1万6,000店、約20万人の店舗スタッフをベースにAI変革を進めている。店内のディスプレイを活用したリテールメディアなど、以前よりデジタル戦略への積極的な取り組みが目立つ同社だが、その根幹にはトップ層の強い意思がある。
代表取締役社長 細見研介氏は、元々ファミリーマートの親会社である伊藤忠商事でブランドマーケティング事業に長年従事した後、ファミリーマートを担当する組織のトップに。同社で新たな変革を起こせないか。そう考え先行事例の情報を収集し始めたのが、デジタル化の第一歩だったという。結果的に、今のAI推進にまでつながった。
「新技術のスピードと投資回収の難しさというジレンマは常にある一方で、継続した知識の収集だけは欠かしてはなりません。新技術を取り込むには、トップのコミットメントが極めて重要。トップ自身が技術の進歩をキャッチアップし、自らが関係者を鼓舞するのです」(細見氏)
同じく基調講演に登壇したエクサウィザーズ 代表取締役社長 CEOの春田真氏も、細見氏の姿勢に同意する。
「細見氏自身、新しいもの好きなのだと思います。そうしたトップだと、社内にAI活用が浸透する速度が速いです。まずはやる。失敗してもやり直せば良いという考え方になりやすいからです」(春田氏)
ファミリーマートのAI活用におけるキーワードは「現場」だ。全国に展開する店舗とストアスタッフをも含めた多くの従業員に対して、AIをどう取り入れるかが大きなテーマとなる。
具体的な活用事例として、細見氏は「人型AIアシスタント」による対話型の業務支援を挙げた。店長がタブレット上でヒューマノイドと会話をし、天候にあった発注内容や売場での商品展開を決める。このAIは、過去2年間の販売データや気象、近隣の学校の運動会の実施時期といった周辺情報などを学習しており、各店舗で情報を取り出せるため、最適な提案が可能だという。
また、「AIレコメンド発注」の仕組みでは、発注が的確な店舗のデータを収集し、より精度の高い発注を可能としている。ほかにも「AI配送シミュレータ」が物流拠点から各店舗への最適な商品配送ルートを提案し、配送コースを約1割短縮する成果も出ている。
これらのAIツールが現場にまで浸透している背景には、ファミリーマートのビジネスモデルがある。「全国で共通の形式の店舗が多く展開されているため、全社が同じベクトルで切磋琢磨していける」と細見氏。たとえば、生成AIのプロンプトづくりの大会などを全国レベルで実施しているという。同氏は「従業員たちが、楽しみながらAIに慣れていった」と述べ、現場が主体的に、そして前向きに新技術に触れる機会の重要性を示した。
