はじまりは社長の危機感 今では社員がAIツールを開発できるまでに
──まずは事業内容と、全社的なAI活用に至るまでの体制について教えてください。
中村:当社は、注文住宅事業を中心に、不動産事業、介護事業、福祉事業、SaaS事業などを展開しています。私が入社した10年前は社員数10名程度の会社でしたが、今では127名規模にまで拡大しました。その中で私が所属している広報企画部 DX推進課が、各事業部の業務効率化支援とシステム管理運用を一元的に担う体制です。
──そもそも、なぜAIが必要だったのでしょうか。
中村:きっかけは、当社の代表がAI専門家との対話を通じて抱いた強い危機感でした。今まで人が担ってきた仕事はAIが代替できるようになります。業界を問わずAXが叫ばれる中、どうやって競争力をつけるかは重要な問いです。元々当社は、奈良に拠点を構える地方密着型の工務店。地方企業が力をつけるには最先端の技術で業務を回していく必要がある。代表自身が「AI前提の働き方に変えていかなければ会社の未来はない」と判断したのです。
──社員の方々は当初よりAIへの理解が深かったのですか。
中村:いえ、1年前はまだ「AI=ニュースで見る遠い世界の技術」でした。一部の社員が個人的にChatGPTやGeminiを触る程度で、組織的な活用は皆無。多くの社員が「誰か詳しい人がやってくれる」という「他人事」と考えていたはずです。また、個人的に使っていた社員においても「当社として使用して問題ないのか?」という課題はありました。この状況に対してトップダウンで「正しくAIを使え」と強制するのではなく、まず全社向けのAI勉強会から始めたことが大きかったです。
当社には専門のIT部門もなければ、AIに詳しい人材もいません。そのため、株式会社THAのAI戦略顧問であり生成AI活用普及協会 常任協議員の小澤健祐氏を講師として招き、AIの基本的な仕組みや業務が楽になると社員に示したんです。結果的に「難しそう」「仕事を奪われるかもしれない」といった漠然とした不安、いわゆる「AIアレルギー」を払拭できたのだと思います。
その後、各部署から挙手制でメンバーを募り、10月に「AI推進プロジェクト」を立ち上げました。まずは毎週1時間の勉強会や実務セミナーを重ね、AIに触れる機会を増やすことで全社的な活用につなげていきました。
──具体的には、対話型のChatGPTやGeminiを使いながら業務を進めるイメージでしょうか。
中村:それもありますが、社員が自らChatGPTやGeminiをベースにAIツールを開発しています。設計部の社員がITの専門知識がない状態から図面チェックツールを自作するなど「まず、やってみる」精神の表れです。ほかにも不動産事業部では重要事項説明書の作成を自動化したり、介護事業部では高齢者向けのAI生活相談員を独自開発したりと、現場の困りごとに基づいたユースケースが次々と生まれました。
当初は外部からの支援に依存していた状態でしたが、この1年で社員が自ら考えて開発・改善する自走体制へと大きく変化しています。結果として、広報企画部では最大で一人当たり年間1,368時間の業務削減を達成するなど、大きな成果につながりました。
