日本のリーディングカンパニーがGoogle Cloudに賭ける理由
「世界はデータとAIによって変化しているだけではなく、リアルタイムで再構築されている」──Google Cloud Next Tokyo 2025 Day2の基調講演で、データクラウド担当のアンディ・ガットマンズGM兼VPはこう語った。この言葉は、現在の企業IT環境の本質を端的に表現している。
今年登場した「Gemini 2.5」モデルにより、GoogleのAI技術は飛躍的な性能向上を実現した。OpenAIのGPT、AnthropicのClaudeなど、主要なLLMとの熾烈な競争が繰り広げられる中、GoogleのGeminiはマルチモーダル性において優位性を発揮している。さらにコスト効率の面でも他社を凌駕する性能を示している。同社が長年培ったデータ基盤技術とクラウドインフラ技術の融合により、企業がAIを実用レベルで活用できる環境を提供しているのである。
だからこそ、日本を代表する大手企業群がこの変化の波を敏感に察知している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ソニー、セブン&アイ・ホールディングスといった各業界のリーディングカンパニーが次々とGoogleのAI・クラウド基盤を採用し、目に見える成果を上げているのだ。
なぜ彼らがGoogleを選択したのか。AIエージェント時代における企業戦略の核心はどこにあるのか。基調講演で登壇した企業の発表から伺えたのは、Googleの長年の「AIファースト」戦略とデータ基盤技術の融合や、顧客との「共同イノベーション」を通じた強みだった。

スポーツ界に革命をもたらすNPB×ソニーの野心的挑戦
基調講演で紹介された事例群の中でも、野球界のデジタル変革における取り組みが参加者の興味を惹いていた。NPBエンタープライズとソニーの連携は、スポーツエンターテインメントの未来を示唆する象徴的なケースとなっている。
NPBエンタープライズの丹羽大介執行役員は「ファンの野球体験を根本から変えたい」との思いから、ソニーのホークアイ(HAWK-EYE)高精度トラッキング技術とGoogle Cloudの強固な基盤を組み合わせたシステム構築に踏み切ったと明言した。
この取り組みについて、ソニーの平位文淳執行役員は「従来では不可能だった全プレーのリアルタイム分析と可視化を実現できた」と自信を示している。Cloud Run、Cloud SQL、Cloud Storage、Apigee、GKEオートパイロット、Cloud GPUといった多様なGoogle Cloudサービスを駆使し、打者の打球速度やピッチャーの投球回転数・変化量といった詳細なパフォーマンスデータをリアルタイムで処理する仕組みを構築した。
特徴は、NPB全12球団の全試合データを一元管理し、CGコンテンツの自動生成まで実現している点である。GKEオートパイロットとCloud GPUを使用してNPB全プレーのCG化を達成し、ファンがこれまでにない新しい野球体験を楽しめる環境を提供している。つまり、単なるデータ収集にとどまらず、エンターテインメント価値の創出まで一気通貫で実現したのである。