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AIエージェントとの120日間~協働から見えた成功と失敗のリアル~

【PM編】本当に使えるAIエージェントの育て方 PoCで終わらせない業務改革3ステップ

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もうゼロから仕事を始めなくていい 協働で見えた本質

 こうして無事にAIエージェントと協働できる環境が整ったわけですが、実際に仲間として働いてみて3つの大きな発見がありました。

要件定義の初稿作成をAI化 → 作業時間30%削減見込み

 “白紙から書き始める”ことに多くの時間が奪われていた従来の要件定義。AIエージェントに次の項目を「任せきる」ことで、ノンコア業務の削減を実現できたのです。

 まずは類似案件との比較。これまでの案件データから近いものを抽出し、仕様・制約・成果物の傾向をサマリします。これにより「今回の案件は何が特殊か」が早期に浮き彫りになります。続いて想定ユースケースの整理では、想定ユーザーの行動シナリオや利用シーンをAIエージェントが広く提案し、人がその中から現実的な選択肢を絞り込んでいきます。

 さらに、プロジェクトの大枠を決めるために ゴール定義の案を複数パターン生成し、到達すべき成果物のレベルをそろえます。それと同時に、見落としやすい論点を拾うためにリスク観点の草案も作成。技術的・運用的・意思決定のリスクを洗い出すことで、早期に課題を共有できる状態が整いました。

 そして最後に、品質や運用要件に直結する必要な非機能要件の抽出を行い、セキュリティ・拡張性・性能要件などの漏れを防ぎます。

 これらの作業は、人間が一つひとつ検討すると膨大な時間がかかる部分です。しかし、AIが初期案を一気に提示することで、PMは“判断すべき領域”に集中でき、初稿作成のスピードと精度が大幅に向上しました。

判断に割ける時間が増えたことで成果物の質も向上

 業務を削減できたことで、お客様にとって重要となる質の向上に集中できるようになりました。そうすると、アウトプットの質も自然に高くなります。具体的には次の4つの観点で大きな変化が生まれています。

(1)ユーザー体験の深い検討

 単なる画面や機能の仕様だけでなく、ユーザーの行動シナリオや感情の流れ、利用前後の動線まで踏み込んで議論できる時間が増えました。AIエージェントが事実ベースの整理を担ってくれるため、PMはより本質的な体験価値を描くための思考に集中できます。

(2)ステークホルダーとの合意形成

 初稿段階で論点が網羅されているため、関係者と共有するタイミングで「そもそも何を議論するか」で迷うことが減り、意思決定までのスピードが速まりました。議論の前提をそろえる作業をAIエージェントが下支えすることで、会議の生産性が格段に上がっています。

(3)中長期視点での打ち手設計

 中長期的な戦略の検討に時間を割けるようになりました。技術負債や将来の拡張性、運用体制の持続性など、普段は検討を後回しにしがちな領域も、早期に「次の一手」を提示できるようになります。AIエージェントが初期の整理を高速に行ってくれるからこそ生まれた余白です。

(4)リスクの早期発見

 AIエージェントが過去案件や類似構造をもとに潜在リスクを洗い出してくれるため、仕様の抜け漏れ、技術的制約、依存関係の問題などに早い段階で気づけます。これにより、実装後の手戻りが大幅に減少し、プロジェクト全体の安定性が上がりました。

 このように、AIエージェントによる作業時間の削減が単なる効率化にとどまらず、PMが本来取り組むべき価値創造に専念できる環境を生み出し、成果物の質に直結しているのです。 

改善しても尽きない現場課題 特に影響が大きいのは◯◯だった

 AIエージェントが形になり運用が始まったのですが、その後いくつもの“現場の壁”に直面しました。特に大きかったのは、案件の種類があまりにバラバラで、AIエージェントに似た案件を参照して深掘りしてもらうことが難しいという事実でした。PMチームが扱う案件は、業界・仕様・技術構成・制約条件などが毎回異なります。「まったく同じ案件」は存在せず、AIエージェントに過去事例を活用させるのは困難なのです。

 改善を続ける中でわかったのは、AIエージェントは事例ベースで案件を特定するより、人間の思考フレームを安定化させる役割のほうが得意ということ。たとえば要件定義で見る観点はPMの経験によって異なります。ゆえに、AIエージェントに丸投げすると重要な論点が抜け落ちてしまうこともありました。この問題を解決するために行ったのが「AIを思考フレームの標準装備化すること」です。AIエージェントが次の業務を担うように変更を加えました。

  • PM業務のプロンプトの作り方を教える
  • AI Workerの使い方をレクチャーする
  • 要件定義で必ず見るべき観点をガイドする
  • 情報整理の順番を提示する

 特に効果が大きかったのが、新人社員の育成への活用です。新人PMが最初に困るポイントは「どんな観点で要件を整理すればいいか」「プロンプトはどう作るのか」「AI Workerをどう活用すればいいか」と、どれも共通していました。これらをAIエージェントが“24時間教えてくれる”状態を作ったのです。

 AIエージェントが初稿を作り、人が判断し、またさらにブラッシュアップする──この役割分担が、PMにとって最速で最良のプロダクトを生むと、おわかりいただけたのではないでしょうか。

 次回は、マーケティング領域における属人化解消と「戦略策定エージェント」の進化について深掘りします。

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この記事の著者

株式会社AI Shift AIエージェント事業部 チーフエバンジェリスト 及川信太郎(オイカワ シンタロウ)

新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。AIコールセンター領域でチャットボット・ボイスボットのセールスリーダーを担当後、プロダクト設計およびCS業務を担う沖縄対話センターの責任者を経て、現在はAIエージェントの導入・活用推進をリード。約90,000人への生成AIリスキリングを講師としても提供。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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