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AIエージェントとの120日間~協働から見えた成功と失敗のリアル~

【PM編】本当に使えるAIエージェントの育て方 PoCで終わらせない業務改革3ステップ

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「導入して終わり」を防ぐには……

 これらの壁を乗り越えるために、業務プロセスをAIエージェント前提に組み直しました。具体的には次のステップを踏みます。

STEP1 業務を細分化し人間の仕事とAIエージェントの仕事を分ける

 PMチーム全員で業務を60以上の単位にまで分解し、まずは「何をAIに任せられるのか」を棚卸しました。仕分けをスムーズに進めるためには次の(1)~(4)の流れで行います。

(1)業務を「説明できる最小単位」まで分解する

 いきなり「要件定義」や「資料作成」といった大きな粒度で判断しようとすると、どこまでがAIエージェントが担うべき部分で、どこからが人が担うべき部分なのか決められません。まずは「前提条件の整理」「情報収集」「過去事例との比較」など、5分程度で説明できるレベルの業務まで細かく分解します。

(2)判断の要不要で線引きする

 次に、分解したタスクを「意思決定が必要かどうか」で分類します。意思決定が不要なものはAIエージェントが得意な領域であり、逆にステークホルダー調整や合意形成など“人ならではの判断”が求められるタスクは、迷わず人が担うべき領域に分類できます。

(3)アウトプットの期待値を事前にそろえる

 たとえば、チーム内で「要件定義書は初稿レベルで良いのか」「草案まで必要なのか」といった期待値をそろえることで、AIエージェントに任せられる業務が増えます。成果物のゴールを明確化したことにより、当社では業務の仕分け精度が大きく上がりました。

(4)例外など特殊な事情の有無をチェックする

 セキュリティ制約や非公開の仕様など、特殊な判断が必要な場合は人が担当します。逆に、繰り返し性や再現性の高いタスクは積極的にAIエージェントに任せていきました。

 このように「粒度 → 判断の有無 → 期待値 → 例外」という順番で整理していけば、PMチーム全員が迷わず同じ基準で業務を仕分けできる状態となります。しかし、業務の仕分け後も現場にはもう一つ大きな課題が残っていました。それが、AIエージェントに正しい情報を参照させるためのデータ環境です。

STEP2 参照する情報源を固定化

(1)ビジネス・エンジニアメンバーで役割分担し、使えるAIエージェントに

 ビジネスメンバーはSTEP1の業務細分化を踏まえて「AIエージェントが担うべき理想の役割」を定義しました。一方でエンジニアメンバーは、社内ドキュメントの管理状況や技術要件を精査し、AIエージェントとして実現可能な着地点を設計しました。「PMだけで完結する作業」と思うかもしれませんが、実際には技術的な制約やデータ構造の理解が不可欠。ビジネス側とエンジニア側が初期段階から協働すれば要件のズレが減り、AIエージェント設計の精度とスピードが上がります。

(2)データ集約場所の策定

 次に、AIエージェントが正しく情報を参照できるよう、データをどこに集約するかを決める工程があります。当社ではSalesforceを中心に顧客管理を行っていますが、これまで議事録やメモの保存は属人化しており、

  • Salesforceに入力されている内容
  • Notionで個別にまとめられた情報
  • Slackに入力されて埋もれている情報

など、記録の場所が統一されていない状態でした。

 そこで今回は 「商談や会議が終わったら、すべての記録をSalesforceに集約する」とルールを統一しました。これにより、 AIエージェントが参照する情報源が一本化され、回答の精度が安定します。

STEP3 構築したAIエージェントを共同で磨き上げる

 AIエージェントは作って終わりではありません。精度と使い勝手を高めるには、現場で使いながら継続的に改善していく必要があります。PMチームではこの改善プロセスを“全員で育てる文化”として運用し、次のようなサイクルを回していきました。

(1)実際の利用画面を見ながら使い勝手をレビュー

 AIエージェントの構築後、実際の画面を触りながら次のような課題をメンバーで洗い出しました。

  • 入力項目が多すぎて使いづらい
  • 情報が抽象的で回答のブレが大きい
  • 必要な情報が不足していて精度が安定しない
  • アウトプットがテキストばかりで見づらい

 こうした実際に使った感想を共有し、AIエージェントの設計やデータを細かく調整しました。

(2)利用者全員が「改善者」になる 定期フィードバックの仕組み化

 AIエージェントの改善は特定の担当者だけが行うものではありません。PMチームでは利用者全員からのフィードバックを定例化し、毎週のアップデートに反映させました。

  • 使ってみての感想・改善要望の収集
  • 参考データの追加(類似案件・補足情報・前提条件)
  • 回答のズレに対するテンプレートの修正
  • 必要な「思考観点」の追加や明文化
実際の改善要望の一覧と、それに対する開発担当者からのコメント
実際の改善要望の一覧と、それに対する開発担当者からのコメント(クリックすると拡大します)

 AIが誤りやすい部分は、 テンプレートや思考フレームに組み込むことで改善。結果として、AIエージェントが誰でも使えるレベルに進化していきました。

(3)AIエージェント=育てるものという文化の醸成

 このプロセス全体を通じて最も大きかった発見は、AIエージェント=現場ごと・人ごとに合わせて育てていく存在であるという認識がチーム全体に浸透したことでした。「使う → 気づく → 直す → さらに使う」というサイクルを続けるほど、AIエージェントは現場視点を身につけ、PMチームの一員として機能するようになっていきます。具体例を実際の画面で2つ紹介します。
 

自律型エージェント構築エージェント(クリックすると拡大します)PMチームが実際に利用している「自律型エージェント構築エージェント」の出力結果。AIエージェントの構築に必要なツールの設計や構築手順を教えてくれています。

自律型エージェント構築エージェント(クリックすると拡大します)

PMチームが実際に利用している「自律型エージェント構築エージェント」の出力結果。AIエージェントの構築に必要なツールの設計や構築手順を教えてくれています。

AI Shiftが提供している企業ごとにカスタマイズしたAIエージェント構築プラットフォーム「Al Worker Platform」のガイドエージェント(クリックすると拡大します)AI Worker Platform の使い方をサポートするガイドエージェントが、画面操作の説明からAIエージェント構築の方法までを案内してくれます。

AI Shiftが提供している企業ごとにカスタマイズしたAIエージェント構築プラットフォーム「Al Worker Platform」のガイドエージェント(クリックすると拡大します)

AI Worker Platformの使い方をサポートするガイドエージェントが、画面操作の説明からAIエージェント構築の方法までを案内してくれます。

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もうゼロから仕事を始めなくていい 協働で見えた本質

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この記事の著者

株式会社AI Shift AIエージェント事業部 チーフエバンジェリスト 及川信太郎(オイカワ シンタロウ)

新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。AIコールセンター領域でチャットボット・ボイスボットのセールスリーダーを担当後、プロダクト設計およびCS業務を担う沖縄対話センターの責任者を経て、現在はAIエージェントの導入・活用推進をリード。約90,000人への生成AIリスキリングを講師としても提供。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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