AIが答えを出す時代に、なぜ「手書き」なのか

「アイデアは一次元的ではない。それを捉える方法も、そうあるべきではない」──CEOのチャン氏は発表に際しこう切り出した。私たちの思考は直線的に進むわけではない。あちこちに飛び、戻り、つながり、時に混沌とする。その混沌こそが創造の源泉ではないだろうか。
無限キャンバスのホワイトボード、柔軟なテキストドキュメント、マルチモーダル対応のGoodnotes AIという3つの進化によって、同社は「手書きとAIの融合」という新しい可能性を提示している。創業者兼CEOスティーブン・チャン氏とCOOミン・トラン氏が語ったのは、「考えながら共有する」という、これからの協働スタイルだった。

今回のアップデートで注目したいのは、無限ホワイトボードとテキストドキュメントが統合されたことだ。これにより、発散的思考と収束的思考を自在に行き来できる環境が整った。図解やマインドマップを制約なく展開し、新しい図形ツールで概念間の関係を即座に構造化する。「描きながら考える」プロセスが、より直感的になった。
一方、テキストドキュメントは、手書き・タイピング・画像を自由に組み合わせられる柔軟なエディタとして機能する。レポートや会議メモへのスムーズな展開も可能だ。
実は筆者も、以前は取材や編集作業でGoodNotesを使っていた。Apple Pencilでの手書き文字変換やラフな図の作成は快適だったが、入力スペースが意外に狭く、画面の制約で思考が途切れてしまうと感じることもあった。本格的な文書作成では「手書きスペースの中に文字領域を限定して入力する」というプロセスが必要で、一般的なワープロのようなスムーズさには欠けていた。今回のテキストモードは、通常のテキストエディターと同じ感覚で文書作成ができる。
そして、もう一つの利点がリアルタイム共同編集機能だ。プライベートリンクを共有するだけで、同じホワイトボード上に複数人の筆跡やコメントが同時に現れる。物理的に離れたチームが「同じ場で考えている」体験を得られることは、リモートワーク時代の意思決定を大きく変える可能性を秘めている。

今回のリリースの核となるGoodnotes AIは、従来のAsk Goodnotesから大きく進化した。手書き、スケッチ、テキスト、画像、音声──マルチモーダル情報を理解・生成できるAIへと生まれ変わり、テンプレート提案、図表作成、要約生成を通じて、ユーザーの発想を整理し磨き上げる「思考のパートナー」として機能する。

GoodnotesのAI機能は同社が独自のハンドライティング認識エンジンとLLMを組み合わせている。特に日本語の漢字認識精度の高さは、世界中の機械学習チームが継続的に最適化を図っている成果だという。企業での活用を見据え、オンデバイスでの音声文字起こし機能や管理者コンソールなど、セキュリティと運用管理の両面が強化されている点も見逃せない。