(本記事はOracleの公式チャンネルの「Larry Ellison Keynote on Oracle's Vision and Strategy: Oracle AI World 2025」を元に構成している)
AI技術が急速に実用段階へと移行している中、エリソン氏は、AIモデルの構築そのもの以上に「それらを実際の課題解決に活用する段階こそが世界を真に変える」と強調した。
45万個以上のNVIDIA GB200を配備
現代のAIモデルは「マルチモーダルモデル」と呼ばれ、人間の脳と同様に複数のニューラルネットワークで構成されている。視覚処理用、言語処理用、推論用といった専門化されたネットワークが協調して動作する仕組みだ。
エリソン氏は、人間の脳が20ワットという低消費電力で860億のニューロンを動かすのに対し、大規模AIクラスターは12億ワットという膨大な電力を消費すると説明した。「これは米国の100万戸の家庭に電力を供給できる規模だ」。オラクルがテキサス州アビリーンに建設中のデータセンターは、完成時には45万個以上のNVIDIA GB200を搭載する計画だという。

しかし、ここに業界共通の大きな課題がある。ChatGPTやAnthropic、Geminiといった主要AIモデルは、すべてインターネット上の公開データでトレーニングされている。企業や医療機関が保有する高価値な民間データは、プライバシーとセキュリティの観点から学習に利用できない。「人々は自分の民間データを民間に保ちたい。しかし同時に、この強力なツールを使って民間データで推論したいとも考えている」とエリソン氏は指摘する。
オラクルはこの課題に対して「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」を進化させることで向き合う。オラクルが発表した「Oracle AI Data Platform」もこの技術を中核としている。
仕組みとしては、データベース内のデータを「ベクトル化」し、AIモデルが理解できる形式に変換する。これにより、モデルは公開データだけでなく、企業の民間データでも推論を行えるようになる。オラクルのシステムでは、Oracle Databaseだけでなく、他のクラウドストレージ内のデータもベクトル化できる設計となっている。ただし、このアプローチには技術的な複雑さとセキュリティ上の課題がともなう。「簡単だったら、多くの人々がすでにそれをやっているだろう」とエリソン氏は認めている。