膨大な社内データをどうAI-readyにするか 重要なのは置き場所の制限
──2025年3月にOpenAIの企業向け生成AIサービス「ChatGPT Enterprise」、7月にはGoogle Cloudのエンタープライズ向け生成AIプラットフォーム「Google Agentspace」を全社導入されています。国内でまだ導入事例が多くはないですが、このスピード感には驚かされました。
村瀨:大手企業のLLM(大規模言語モデル)やAIプラットフォームは、基本的にすべて使えるようにするのが私のポリシーです。社員には常にベストなUI/UXと機能でAIを体験してほしいと思っています。これは元エンジニアとしての経験から強く感じることです。
たとえば、Google Agentspaceの導入は、契約交渉から導入まで約2週間。大きな決断だといわれるのは嬉しい一方で、これでも少し遅いのではないかと思っています。世の中のスピードが速すぎるため、焦りを感じているのが本音です。
──全社導入後、社員はどのように活用しているのでしょうか。
村瀨:意外にも、事業部側以上にバックオフィス側の活用が進んでいます。法務部、経理部などが業務効率化を「楽しい」と感じて、多くのGPTsやAIエージェントを活用しているんです。
ちなみに、Google Agentspaceでは、社内のナレッジや情報を横断的に検索できますが、一番最初に検索されたのが「今日の社食のメニューは?」でした(笑)。社食のPDFをAIが読み取れなかったためドキュメント化するなど、まずはデータをAI-readyな状態にするための地道な作業から始まりましたね。

村瀨:私自身、AIはデータクレンジングをしなくても、自動で必要な情報を取捨選択してくれるだろうと期待しすぎていた部分がありました。しかし、AIには「コンテキストウィンドウ」という一度に処理できるトークン数に制限があるため、すべての社内資料をそのまま読み込ませることはできません。
そこでわかったのは、「最新の情報は常にここにある」というマスタデータを作っておき、たとえばナレッジベースとRAG(検索拡張生成)を通じてAIが参照できる状態にしておくのが、最も効率的だということです。古いデータをすべて更新するのではなく、データの置き場所を限定します。継続的な棚卸しの手間を省き、常に最新の情報をAIに提供できる仕組みにしました。
──AIにどこまでデータを提供するかも、重要な課題だったのではないでしょうか。
村瀨:当然ながら、入力データをAIが学習しない設定になっていることが条件です。その上で、個人情報で利用の同意を得ていないもの、他社とのコラボレーション情報など、機密性の高いものは、AIに提供しないルールとなっています。コラボレーション情報は、発表前にリークされることがあってはなりません。
いいかえると、それ以外のデータは、プロンプトへの直接入力や、AIが参照するナレッジベースに格納するといった方法で、当社が利用可能と定める生成AIツールなどに提供してOKとしています。もちろん、ガイドラインも設けて社内で共有していますが、シンプルに考えれば「他人に迷惑をかけない」が基準ということです。