HAIをビジネスで活かす 乗り越えるべき社会の認識と研究のギャップ
大澤氏が説明するように、HAIはあらゆるビジネスにおいて活用の可能性を秘めている。しかし、注意点として「絶対に避けるべきコミュニケーションのデザインがある」という。それはAIの振る舞いが「事前に設計されているのだろう」と感じられてしまうことだ。
このような、人が対象の振る舞いを設計という視点から予測する考え方が、哲学者のダニエル・デネットが提唱している「設計スタンス」だ。たとえば、駅構内に設置された道案内ロボット、飲食店の受付に設定された予約ロボット、料理を運ぶ配膳ロボットなどが、設計スタンスの対象にあたる。これらは、ユーザーの操作に対して原則予想どおりの反応をする。こういった行動を、予測誤差0という。
予測誤差0の振る舞いは、人とAIの間に“心”が介在する余地を与えない。メンタリングの実験にあるように、人はAIを設計スタンスで捉え、「AI=ロボット」だと認識してしまう。AIを心あるパートナーと捉えてもらうには、予測不能だが解釈可能であることが重要だ。
「私たちも、相手の心のすべてを完璧に理解することはできませんよね。それでも、『なぜ今こんなことをいったのだろう』と相手の行動の意図を考え、後から『ああ、そういうことだったのか』と納得する瞬間があるはずです。HAIの考え方では、AIも、一見予測不能に思えても後から意図が解釈できるような振る舞いをする必要があります」
たとえば、会話している相手が突然立ち上がり叫び出したら、予測不能かつ解釈不能で、周囲は戸惑うだろう。これに対して、立ち上がった後に「この本を参考にしているんです」と後ろの本棚のほうを向けば、その行動は解釈可能となり、納得感が生まれる。

難しいことのようにも思えるが、HAIはまったく新しい概念ではない。多くの人が利用するようになったChatGPTも、あたかも心を感じているような振る舞いをするときがある。こうした対話型AIとのコミュニケーションに夢中になり、人生の大きな決断をするケースも目にするようになった。
「意図せずAIに過度な心を与えてしまうと、事故が起こることもあります。我々は、AIの安全性も含めて総合的に研究を重ねてきました。既にビジネスへの導入の準備はできています。とはいえ、『心を感じるAIです』と稟議書に書いても、社内で決裁はとおらないですよね。AIの利点を効率化やコストカットというわかりやすい指標でのみ評価する社会の認識と、最先端の研究との間には大きなギャップがあります」
大澤氏はこのギャップを埋めるため、大規模な展示会で体験型のブースを出展するなど、積極的に情報発信の場を設けている。
「技術や研究面でのハードルがあるとは、あまり感じていません。一方で、研究者が社会とのつながりを持とうとしなければ、社会実装が進まない。だからこそ、発信し続けます」
アニメーションの世界で見た、AIと友だちになれる時代は、もうすぐそこまできている。