麻生塾:教職員専用AI「Alis」で実現する教育DX

教育セクターでグランプリを受賞した学校法人麻生塾は、福岡県で12校の専門学校を運営する。同塾では教職員専用AI「Alis(アリス)」を独自に開発し、授業準備から課題評価、校務に至るまで幅広く支援する環境を整えた。
同塾の担当者は「AIは楽をするためのものじゃなくて、学生のための愛(=AI)」と述べ、生成AIによって教育を楽しく効果的にし、日本を元気にしたいという夢を語った。現在、教育界は保護者対応や事務作業に追われ、一斉授業という150年続く手法に頼らざるを得ない状況にある。だからこそ、同塾では「教員たちがいつの間にかAIを使っていた」という状況を目指したという。
Alisは「うまい、安い、早い」を実現したシステムだ。欲しい人がその場で、かつ0円で作り、翌日にはリリースするという3つを兼ね備えている。現在40種類ほどの機能があり、授業のパワーポイント自動作成や国家試験の類似問題作成、チャットボット作成など、教員が本当に必要とする機能を次々に実装する。
実際に、SQLという難易度の高い科目で活用事例が生まれている。Alisによって簡単に動画にした授業を学生が自分のペースで視聴し、演習問題に取り組み、早めに終わった学生にはAIが無限に問題を出すというチャットボットを開発した。この結果、平均点が16.1%アップし、授業のコマ数が半分、教員の準備時間が4分の1、説明や質問対応の時間がほぼ0になるという驚異的な効率化を実現している。学生満足度も5段階中4.6に達し、「1番好きな科目」という声が圧倒的に多くなったという。
南あわじ市役所:小規模自治体が示す「内製化」の可能性

公共セクターでグランプリを受賞した兵庫県南あわじ市役所は、人口4万2,000人の小規模な地方自治体ながら、「最強の市役所」の実現に向けてDX人材育成プロジェクトを推進している。ユニークなのは、DX専門職の雇用や外部からのDX人材の登用を行わず、内製化を軸とし、職員一人ひとりの研鑽と学び合いによる自走型チームで取り組んでいる点だ。
同市では2020年の新型コロナ対策の特別定額給付金で、ベンダーが早急に対応できなかったため職員がアクセスで給付システムを自作し、兵庫県内トップのスピードを実現した。この成功体験をもとに、市長主催のExcelマクロ教室を開催し、2024年からは生成AI活用に意欲的に取り組んでいる。
具体的な成果として、移住支援サイト「住みニコ」内のAI検索システムをRAGの原理を使って開発し、利用者の意図に沿った回答を提供できるようにした。また、ゴミ分別ガイド「わけるんです♪」では、担当者が切望していたゴミ分別アプリを開発した。生成AIがなければ完成していなかったという。市長は「職員の余力を生み出して、住民とのより丁寧な対話や課題への対応、ワークライフバランスに振り向けたい」と今後の展望を語った。
今回受賞した各組織に共通するのは、生成AIの技術導入にとどまらず、それを人材育成や組織文化の変革に結びつけている点だ。トップのコミットメント、現場主導の推進体制、小さな成功体験の積み重ね、そして評価制度への組み込みなど、持続可能な仕組み作りに注力している。