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AI Leaders Journey AIトップランナー対談で未来の航海図を描く。

【動画】 マーケター西口一希氏「仕事の8割は消滅する」AI時代にマーケターが生き残るための三種の神器

AI時代のマーケティング戦略と行動原則

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 AIの普及・浸透により、マーケティングはどう変わるのか。『顧客起点マーケティング』の著者であり経営者/マーケターである西口一希氏を迎え、AIdiver編集長の押久保が「AI時代のマーケティング戦略」をテーマに対談した。常に新たな領域へと“Dive”し続ける西口氏が語る、AI時代を生き残るための必須スキルと、経営者が持つべき新たな視座とは何か。AI活用を推進するマーケターやAIリーダーたちが、未来のアクションに繋げるためのヒントをお届けする。※YouTubeで動画でもご覧いただけます。

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AIによってもたらされるマーケティングの再定義

押久保:西口さんの長年のキャリアの中でも、AIは大きな転換期ではないかと思います。近年のAIがマーケティングに与えている変化を、率直にどのようにご認識されていますか?

西口:はい。私が2019年に著書で予測した「デジタルが全ての摩擦(面倒なこと)を解決する」という未来が、2022年末のChatGPT登場以降「急激に来てしまった」というのが実感です。当時はAIによる急激な変化が訪れるのは2045年頃だろうと考えていましたが、そのスピードが圧倒的に加速しました。マーケティングの領域は、このAIの波によって、根本から構造が変わると見ています。

押久保:具体的に、マーケティング分野ではどのような変化が起こるとお考えでしょうか?

西口:特にデジタルマーケティングと呼ばれる領域の「作業」にかかっている時間の8割はなくなると予測しています。しかも、これは数年以内の話です。クリエイティブ生成、バナー運用、ABテスト、データの集計や初期分析など、言語化・形式知化しやすいタスクは、AIが相当部分を自動化していきます。

Strategy Partners 代表取締役社長/『顧客起点マーケティング』著者  西口一希氏

西口一希氏

株式会社Strategy Partners 代表取締役社長 / Wisdom Evolution Company株式会社 代表取締役社長 / マーケター

P&Gジャパンにてマーケティングを経験後、ロート製薬、ロクシタンジャポン、スマートニュースでマーケティングや経営に関わる。 著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』『良い売上、悪い売上 「利益」を最大化し持続させるマーケティングの根幹』(翔泳社)など。

押久保:以前から「How(手段)」に偏重し、手段が目的化している現状を指摘されていましたが、AIによって「How」が自動化されることで、マーケティングはより本質的になっていくということですね。

西口:まさにその通りです。マーケティングの機能は、本来注力すべき「お客さんは誰か」「何を提案するのか」という本質的な部分と、全体の「オーケストレーション(まとめ役)」に集約されていきます。これは、マーケターが「違う仕事に注力できる」というポジティブな側面がある一方で、AIが「資本効率を高める」方向に絶対に進むという現実を突きつけています。

押久保:AIの進化スピードは驚異的です。この速すぎる変化に、私たちはどうついていくべきなのでしょうか?

西口:AIの進化のスピードは、インターネットやスマートフォンの登場時の変化を遥かに超え、以前は1年かかることが今や「数日で起こっている」感覚です。私はこの流れに「怖い」と感じながらも、取り残されないよう、今では毎日3時間以上、意識的にAIツールを使い倒しています。この劇的なスピードについていく覚悟と行動力がなければ、AIを使いこなせる人材と、そうでない人材との間に、大きな差が生まれるでしょう。

押久保:この状況に直面している現場の若手マーケターがいるとしたら、どのようなスタンスで仕事に向き合うべきでしょうか?

西口:自分が若手であれば「AIで置きかえられる部分は何だろう」と、AIツールを使いながらまず探り、先手を打ってAIにやらせてしまいます。そして、「それ以外で自分がやるべきこと」「自分じゃないと作れない価値」とは何かを考えることに集中する。これまでは上司からの指示に従うことが求められましたが、AIによってその前提が覆されるため、若手の方々自身が「これはAIがやるべきなのか、自分がやるべきなのか」を自問自答し、仕事のあり方を能動的に見直すことが、今最も重要だと考えます。

生き残るための三種の神器は、財務、AI、そして人間理解

押久保:AIが作業の大部分を代替する時代に、マーケターの役割はより本質的になるとのことですが、具体的にどのような能力を身につけるべきでしょうか?

西口:これからのマーケターに必須となるのは、知識と能力の「三種の神器」です。

  1. 財務知識
  2. AIへの知識(応用能力)
  3. 人間・顧客の理解

 この3つが、AI時代を生き抜くための鍵となります。

押久保:特に、なぜマーケターに「財務の知識」が必要になるのでしょうか?

西口:AIは資本効率を高める方向に動くため、マーケティング活動が「投資効率や費用対効果」の枠組みの中で語られざるを得なくなります。そうなると、マーケターは売上や利益だけでなく、固定費・変動費、BS(貸借対照表)・PL(損益計算書)といった基礎財務を理解しなければ、経営層と対話ができなくなります。財務を理解することは、経営との接点を持つためにも不可欠であり、AI時代におけるマーケティングの貢献度を正しく語る土台となります。

押久保:AIの知識は、単なるツールの使い方ではなく、応用能力が求められるということですね。

西口:その通りです。今何ができるのか、どんなツールや技術があるのかを知り、「最新」の技術をどう活用するかという応用能力が求められます。AIの進歩は非常に速いため、毎日30分でも情報を追いかけ「このツールを使うほうがよい」と自ら判断し、導入できる俊敏性が重要になります。上司や他部門の決定を待っていては、競争に遅れをとる可能性が高まります。

押久保:3つ目の「人間・顧客の理解」について、従来のインサイト理解と、AI時代に求められる深さとの違いは何でしょうか?

西口:これは最も重要で、「AIが予測できない部分」を理解する能力です。AIは行動データは理解できても、その背後にある「心理変化」や「行動と心理のつながり」の予測には限界があります。

 たとえば、買い物リストを持っていても、店頭で判断が変わる人間の心理は、必ずしもロジカルではありません。求められるのは、心理学、さらに深く、感情や行動の源泉である内分泌学(ホルモン)や大脳生理学の分野で語られる「生物としての人間理解」です。顧客が意識していないニーズや、本音の裏側にある本当の欲求を洞察する能力こそが、AIが代替できない、マーケターの価値となります。

押久保:西口さんご自身も、かつてご経験された失敗から、大脳生理学などを学ばれたという経緯があるそうですね。そういった深い人間理解の視点が、AI時代でより重要になるのでしょうか。

西口:まさにその通りです。若い時代に論理的には完璧なのに失敗する経験を重ね、論理の外側、つまり人間の「無意識」や「心理」を理解しようと勉強したことが、今、AI時代で最も重要なスキルとして回帰してきました。言語化・形式知化できるものはAIがやってくれるからこそ、暗黙知として存在する人間理解こそが、マーケターの生きる道になると確信しています。

実践者がおすすめするAI時代を駆け抜けるための行動原則

押久保:本動画で紹介している『良い売上、悪い売上 「利益」を最大化し持続させるマーケティングの根幹』では、LTVや経営視点からマーケティングの構造を論理的に解説されています。この「経営とマーケティングの構造」を理解しておくことは、AI時代においてどのような意味を持ちますか?

西口:AIは、データ化できるものはすべて自動化します。そのとき、「経営でやるべきこと」「マーケティングでやるべきもの」の構造を理解しておかないと、AIが単なる「脅威」に見えてしまうでしょう。AIを使い倒すことで、より少ないインプットで大きな価値を生み出すための、構造的な理解が必要なのです。最も重要なのは、「良い売上」と「悪い売上」の区別です。

押久保:「良い売上」と「悪い売上」の区別が、なぜAI時代に重要になるのでしょうか?

西口:AIは、投入したリソース(お金、人件費など)を抑え、無駄を減らし、「利益を最大化」する方向に働きます。この資本主義の論理にAIがぴったりはまるため、企業は利益が出ない悪い売上(一過性や損失を生む売上)を排除し、長期的に利益を生み出す良い売上を作らざるを得なくなります。つまり、AIは経営とマーケティングを統合し、利益最適化を強制する存在となるのです。日本企業でも、この構造理解を持つことが、AI導入による資本効率の向上と、経営層との対話において不可欠になります。

押久保:AI活用の実践者として、今後はどのような動きが加速すると見ていますか?

西口:AIの進化は、人間の認知スピードや企業側の実装スピードよりも遥かに速いです。たとえば、AIエージェントが顧客とECサイトの間に入り込み、新しい顧客体験を創り出すなどの例が出てきています。しかし、ルール整備や企業への実装には時間がかかるため、なんだかんだで3年、5年は整備の時間がかかるのではないでしょうか。だからこそ、この初期段階で率先して行動し、AIを実装したビジネスパーソン、企業が市場を「総取り」をする可能性があると見ています。

押久保:最後に、AI時代に向けてプロジェクトやチームを推進していく方々、あるいは経営層の方々に向けて、改めてメッセージをいただけますか。

西口:はい。AIの進化がこれほど早い中で、皆さんにぜひ実践していただきたい行動が2つあります。

  1. 毎日30分、生成AIを使ってみる
  2. 自分の仕事を「手抜き」し、AIで置き換えられる部分を探すこと

 AIの進化が早いということは、上司からアサインされる仕事やタスクが「間違っている可能性が高くなる」ということです。言われたことだけやって結果が出た時代は急激になくなり、自分自身で問う能力が必要になってくると思います。

 言い換えれば「自分自身で仮説を立ててアクションをすることが、より重要な時代になった」ということです。自分で考えて行動し、AIができない「暗黙知」や「データ化されないノウハウ」を磨くという、根源的な問いを常に持つことが、AI時代を生きるプロフェッショナルには求められます。

押久保:AIの未来にはポジティブな部分もネガティブな部分もあると思いますが、結局は「行動しなきゃわからない」という本質があります。今日の西口さんのお話は、その行動を後押ししてくれる力強いメッセージだと感じました。本日はどうもありがとうございました。

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この記事の著者

押久保 剛(AIdiver編集部)(オシクボ タケシ)

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年にスタートの「MarkeZine」立ち上げに参画。2011年4月~2019年3月「MarkeZine」編集長、2019年9月~2023年3月「EnterpriseZine」編集長を務め、2023年4...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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