AIによってもたらされるマーケティングの再定義
押久保:西口さんの長年のキャリアの中でも、AIは大きな転換期ではないかと思います。近年のAIがマーケティングに与えている変化を、率直にどのようにご認識されていますか?
西口:はい。私が2019年に著書で予測した「デジタルが全ての摩擦(面倒なこと)を解決する」という未来が、2022年末のChatGPT登場以降「急激に来てしまった」というのが実感です。当時はAIによる急激な変化が訪れるのは2045年頃だろうと考えていましたが、そのスピードが圧倒的に加速しました。マーケティングの領域は、このAIの波によって、根本から構造が変わると見ています。
押久保:具体的に、マーケティング分野ではどのような変化が起こるとお考えでしょうか?
西口:特にデジタルマーケティングと呼ばれる領域の「作業」にかかっている時間の8割はなくなると予測しています。しかも、これは数年以内の話です。クリエイティブ生成、バナー運用、ABテスト、データの集計や初期分析など、言語化・形式知化しやすいタスクは、AIが相当部分を自動化していきます。
西口一希氏
株式会社Strategy Partners 代表取締役社長 / Wisdom Evolution Company株式会社 代表取締役社長 / マーケター
P&Gジャパンにてマーケティングを経験後、ロート製薬、ロクシタンジャポン、スマートニュースでマーケティングや経営に関わる。 著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』『良い売上、悪い売上 「利益」を最大化し持続させるマーケティングの根幹』(翔泳社)など。
押久保:以前から「How(手段)」に偏重し、手段が目的化している現状を指摘されていましたが、AIによって「How」が自動化されることで、マーケティングはより本質的になっていくということですね。
西口:まさにその通りです。マーケティングの機能は、本来注力すべき「お客さんは誰か」「何を提案するのか」という本質的な部分と、全体の「オーケストレーション(まとめ役)」に集約されていきます。これは、マーケターが「違う仕事に注力できる」というポジティブな側面がある一方で、AIが「資本効率を高める」方向に絶対に進むという現実を突きつけています。
押久保:AIの進化スピードは驚異的です。この速すぎる変化に、私たちはどうついていくべきなのでしょうか?
西口:AIの進化のスピードは、インターネットやスマートフォンの登場時の変化を遥かに超え、以前は1年かかることが今や「数日で起こっている」感覚です。私はこの流れに「怖い」と感じながらも、取り残されないよう、今では毎日3時間以上、意識的にAIツールを使い倒しています。この劇的なスピードについていく覚悟と行動力がなければ、AIを使いこなせる人材と、そうでない人材との間に、大きな差が生まれるでしょう。
押久保:この状況に直面している現場の若手マーケターがいるとしたら、どのようなスタンスで仕事に向き合うべきでしょうか?
西口:自分が若手であれば「AIで置きかえられる部分は何だろう」と、AIツールを使いながらまず探り、先手を打ってAIにやらせてしまいます。そして、「それ以外で自分がやるべきこと」「自分じゃないと作れない価値」とは何かを考えることに集中する。これまでは上司からの指示に従うことが求められましたが、AIによってその前提が覆されるため、若手の方々自身が「これはAIがやるべきなのか、自分がやるべきなのか」を自問自答し、仕事のあり方を能動的に見直すことが、今最も重要だと考えます。
