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【動画】AI時代、生き残るのは究極のジェネラリスト or スペシャリスト 及川卓也氏と探る人間の価値

大企業に問われる「生成AIが生み出した時間」の有効活用

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 生成AIが進化するスピードは驚異的だ。私たちの仕事や生き方に根本的な変化を迫っている。この激動の時代において人間が担うべき役割とは何か。多くの人が答えを探しているだろう。今回は、MicrosoftやGoogleからスタートアップ企業まで長年にわたりIT業界に身を置き、変遷を見てきた及川卓也氏をゲストに迎え、翔泳社『CodeZine』編集長 近藤佑子がAI時代に不可欠なスキルを探った。※YouTubeで動画でもご覧いただけます

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生成AIがもたらした「解放」と「競争の激化」

近藤(CodeZine編集長):現在の生成AIの進化と普及をどのように見ていますか。ポジティブな面と“危機”だと感じている面を教えてください。

及川(Tably):生成AIの進化は本当に速いです。「さまざまなことが楽になった」という点はポジティブな面だと思います。テクノロジーの役割は人の暮らしや働き方を楽にすることだと私は考えています。

 以前は「マクロの魔術師」のような人でないと難しかった複雑なExcel処理が、今ではMicrosoft Copilotに指示を出すだけで可能となりました。また、Google Apps Script(GAS)なども含め、多くの作業を自動化できるようになったのは生成AIの大きな恩恵です。

近藤:新しい技術へのチャレンジのハードルも下がったように感じます。

及川:私もそう感じています。たとえば、使ったことのない技術で何かを試すとき、以前はドキュメントを読みサンプルコードを探す必要がありました。しかし、今は生成AIに指示を出せばすぐに「Agentic Coding(AIエージェントが自律的に開発を行う手法)」のように結果が得られます。

 新しい分野の知見を取り入れる際には「Deep Research」が使えますし、それでもわからなければ細かく生成AIに質問して答えを引き出せる。ソースから一次情報を探せる上に、それが英語の論文であれば生成AIが要約してくれます。

 つまり「知的モンスター」のような人にとってはすごい時代になったのです。

近藤:「学び方が上手い人」がどんどん成長していく時代ですよね。一方で、この急速な進化に危機感は感じていますか。

及川:一つは「進化が早すぎる」こと。これはポジティブとネガティブのちょうど間かもしれません。私は仕事柄、できるだけ最新の技術を追っています。しかし、毎週何かしら新たな発表があるほど進化のスピードが速いため、追い付くのが大変です。

 プロダクトを提供する側からすると、事業の見通しを立てるのが非常に難しい時代になりました。OpenAIのアップデート一つで、似たような機能を提供していたスタートアップの事業が立ち行かなくなるという話は、SNSでもよく話題になっています。

Tably株式会社 代表取締役 及川卓也氏
Tably株式会社 代表取締役 及川卓也氏

近藤:「SaaS is Dead(SaaS市場の終わり」」といった言葉も聞かれ、Webアプリケーションの形が変わっていく可能性も指摘されています。及川さんご自身も、プロダクト開発の難しさを感じていらっしゃるのでしょうか。

及川:生成AI関連の強者が展開する領域は、物理ではない「情報で完結するビジネス」だと思います。私自身その領域が好きなので、SaaSやプロダクト・ソフトウェア開発で役立つ何かを考えてきたわけです。ところが、同様のサービスやツールは強力なモデルが利用者のちょっとした工夫で実現できてしまいます。

 「こんなサービスを作ろう」と思っても「いや待てよ。あと半年したらこれも普通にプロンプトを投げるだけで実現できる世界が来るかもしれない。それならば今やっても意味がないのでは」と考えてしまう。これはプロダクト開発者として良くないですが、そういう思考に陥る自分がいるんですよね。

AI時代に人間がやるべきは「価値を決める」こと?

近藤:AI時代において、人間にしかできないことはなんだとお考えですか。

及川:世の中のさまざまな営みの中には「正解が明確ではないこと」が多くあります。仮に正解らしきものがあったとしても、そこへのたどり着き方はいくつもある。それを決めるのが人間ではないでしょうか。

 私の本業であるプロダクト開発・プロダクトマネジメントにおいて、成功は「顧客価値の最大化」と「事業価値の最大化」の二つで定義されます。この二つのバランスは非常に難しく、何が価値かは会社によっても違います。これを生成AIに丸投げすることはできません。

 事業の採算を度外視してでも社会貢献を優先するのか、収益を最優先するのか。その「何を成功とするか」という倫理的・価値観的な判断を下すのは人間でなければ。なおかつ、その意思決定をするときに「情熱」がなければ、関係者や顧客を引き込むことはできません。

近藤:そう考えると、人間に残された役割は非常に難しいものだと感じます。その役割を情熱によってどう進められるとお考えですか。

及川:人材育成モデルの一つに「カッツモデル」というものがあります。リーダー層に必要とされるスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類する有名なフレームワークです。

  • テクニカルスキル:自分で手を動かすスキル(コーディング、営業テクニックなど)
  • ヒューマンスキル:コミュニケーション、ネゴシエーション、プレゼンテーションなど
  • コンセプチュアルスキル:概念化、ビジョン構築、物事を抽象的に捉える力

 このうち「テクニカルスキル」の大部分は生成AIによって代替されるでしょう。そうすると、残りの「ヒューマンスキル」と「コンセプチュアルスキル」が極めて重要になるのです。

 私たち人間は、五感を使ってアナログな世界で生きています。生成AIのアウトプットを解釈し、自分の肉声として他者に影響力を行使しようとするには「ヒューマンスキル」と「コンセプチュアルスキル」が鍵です。

近藤:生成AIのアウトプットをただ横流しするだけでは、人は動かせません。そこに自分が納得した上での説得、そして「こうすべきだ」という判断を加える力が求められる時代ですね。そんな中、人間とAIはどのような関係を築くべきでしょうか。

及川:AIエージェントの世界では「自律」という言葉がよく使われますが、日本語で「自律」は「自分を律する」という意味です。しかし、AIが自分を律するかというと、まだできないと思うんですね。「ガードレールとしての人間」という存在は確実に必要です。モデルを作る上でのバイアス対策から、どういった出力や入力を許すかという設計まで、人間が関与しなければなりません。

 私は業務に生成AIを組み込むとき、ガードレールとしてだけでなく「Human in The Loop(AIの処理サイクルに人間が必ず介在して確認・判断すること)」として、人間が絡む必要があると思っています。

 私が工夫しているのが、あえてChatGPTやClaude、GeminiなどのWeb版を使わず、CLI(Command Line Interface)版を使うことです。Web版はメモリ機能が便利ですが、生成AIに主導権を渡しすぎている気がします。

 CLI版でセッション情報をMarkdownファイルなどに自ら保存・管理し、次に使うときにそれを参照させる。これにより完全に自分が主導権を握れると思います。さらに、AIツールを乗り換えても自分のノウハウを引き継げるわけです。

近藤:それは興味深いです。つまり、生成AIが勝手に覚える「Web版のメモリ」ではなく、自分でコンテキストを管理し「自分のノウハウ」としていつでも他のAIツールに引き継げるようにする、“自分のRAG”を作っていくイメージですね。

及川:そのとおりです。自分で複数のエージェントを使い分けてコントロールできるようになるかもしれません。これが生成AIを強力なサポーターとして使いこなすための一つの実験的なアプローチです。

多くの企業が「生成AIで効率化された時間」を使えていない なぜ?

近藤:AI時代を生き抜くための成長戦略として、企業の組織はどのように変わっていくべきでしょうか。

及川:これは正解がない問いです。一ついえるのは、従来の企業は「ある正解に何回もたどり着ける」ように最適化されている、ということです。たとえば工場のように、設計図どおりに短期間で高品質なものを大量生産する“絶対の成功”があり、そのためにやるべきことが最適化されているわけです。

 しかし、VUCA時代といわれて久しい今、正解がない中で必要とされる能力は従来のそれとはまったく異なります。「人材の定義」そのものを大きく変えなければならない。

 多くの企業は失敗から学べずにいます。「こうすれば成功する」という前提のもと、絶対の方程式を理解していない、もしくは実践できなかったこと=失敗だからです。

 これからは「正解がない中で正解であろうものを一旦決めて、それが本当に正解かどうかを検証していく」ことを良しとする必要があります。そのためには、社員全員がビジョンに対する強い共感力をもつこと、そして「圧倒的な当事者意識」をもって進められる人材が不可欠です。

近藤:及川さんが企業を支援する際も、まずは人材育成や組織構造といった点にフォーカスしているのですか。

及川:そうですね。プロダクトマネージャーやテックリードがちゃんと育っていない、あるいはジョブ型雇用ができておらず「一人の人がなんでもやる」状況を目の当たりにしたこともあり、今では人材育成の仕事が増えています

 日本の大企業でも生成AIへの取り組みはまだ発展途上です。「うちの業種は関係ない」と、生成AIによる仕事の代替を対岸の火事のように見ている。そんなことは絶対ありません。今から5年後10年後、どの企業の社員も仕事の半分以上が生成AIに代替されるでしょう。

 そのとき、ある社員の仕事の半分がなくなっても、本人が残り半分で何かできる能力を開発しない限り「同じ給料で5割の仕事をする」だけです。生成AIが生んだ余白で何をするのか本人も企業も考えなければならない。「こういう人材で今後こういう仕事をやるべきだ」という目的思考をもつのです。

近藤:何を学ぶかも含めてアップデートしていかなければなりませんね。

及川:少し話はずれますが、Microsoftの年次レポート『Work Trend Index』でも言及されているように、人間には「エージェントボスになること」が求められるでしょう。つまり、AIエージェントに対して適切に指示を出し、コンテキストを共有する能力が必要なのです。

 AIエージェントは人間よりも高速で物量作戦を仕掛けてきます。私たちはそのスピードに追い付けない。いかにAIエージェントをマネジメントするか。生成AIの出力スピードに対応する新しいプロセスをどう考えるか。生成AIの能力が上がったことで、人間にしかできない難しい課題も生まれています。

究極の「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」、どちらになるか

近藤:では、AI時代に市場価値を高め続けるのはどのような人でしょうか。

及川:一つは「究極のジェネラリスト」です。ここでいうジェネラリストとは「何でも一通りできるけれども、どれも専門家ではない」というネガティブな意味ではありません。生成AIの力を借りながら人間の能力を拡張した「異種総合格闘技の選手」のような存在を目指すのです。

 もう一つは、その真逆の「究極のスペシャリスト」。生成AIは過去のデータを集めて推論の延長でアウトプットします。そのため完全に新しいものを作るのは容易ではない。やはり専門家が必要なのです。

 どちらの道に進むにしても最も重要なのは「目的思考」をもつこと。自分自身が「こんな世界を作りたい」というビジョンをもつ、あるいは誰かのビジョンに心から共感し「これを実現したい」と思う。手段である技術を活かして「何をやろうとしているのか」を軸に据えます。

 私は、たとえ所属会社やプロダクトがマイナーでも「社会に使われたらきっとこういうポジティブなことが起きるだろう」と信じてきました。そのプロダクトがなんのためか深く理解し「自分だったらこうする」という圧倒的な当事者意識をもつことが、AI時代を生きる上で必要不可欠です。

 もし心から共感できない組織にいるならば辞めてもいいんです。「人生、会社に心中する必要はない」と割り切って、自分の能力を活かせる場所を探すのも一つの手だと思います。

近藤:ありがとうございます。最後に、AI時代という大きな波の中で「明日から何をすればいいか迷っている方」へメッセージをお願いします。

及川:正直なところ「迷い続けるしかない」と思っています。1年後のことすらまったくわからないのが今の時代です。誰か偉い人が何かいっていたとしても「それはそれ」という意識で、常に迷い続けるしかない。

 ただし、迷っているだけで手を動かさないのは停滞です。迷っている中でも「こうなるはずだ」「こうしたい」という方向性を決める。迷いながらも歩き始める。そして、日頃からいろんなところにアンテナを張り、最新の状況を把握し続けることが重要だと思います。

 生成AIは人間の能力を拡張してくれる最良のパートナーです。それを使いこなし、迷いながらも行動し続けることが、この時代を生き抜く鍵となるでしょう。

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この記事の著者

藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)

 1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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