人とAIの共存へ 「AIに依存しない」環境で育まれる思考力
日立がAXの先に見据えるのは、単なる業務の効率化を超えた、人とAIの新たな関係性だ。吉田氏は、将来的な人手不足を解決する鍵として、熟練技術者の知識や経験、いわゆる「暗黙知」を学習させたAIエージェントと人間が協働する未来像を描く。「AIエージェントが熟練者と同じように動けない限りは、人間の代わりは務まらない」と述べ、そのための知識獲得が現在の重要テーマだとする。
その一方で、AIが浸透した社会における人間の能力について、懸念も示す。これから社会に出ていく「AIネイティブ世代」は、AIを使いこなす能力に長けている反面、AIの言うことを信じすぎたり、自分だけで考えられなくなったりと、一定のリスクを抱えていると吉田氏は指摘する。AIによる答えを鵜呑みにしてしまい、トラブル発生時に自らの頭で解決策を導き出せない人材が増えることへの危機感だ。
この課題に対する日立の“処方箋”として、「たとえば自ら現場で1~100まで完遂するような経験を大切にしたい」と吉田氏は語る。あえてAIを使わない環境に身を置き、自らの力だけで課題を解決する経験を積ませることで、AIの回答を批判的に吟味し、より良い判断を下すための思考力や“勘と経験”を養うことが目的だ。
AIを強力なツールとして活用しつつも、それに依存しきることなく、人間ならではの価値を発揮しつづける。こうしたアプローチにこそ、企業のAIリーダーが悩まされている課題のヒント、そして人とAIが真に「共存」するための本質が隠されているのかもしれない。
