ワークフロー分断とコンテキストスイッチングが生産性を奪う
──ドキュメントを正確に読み解けたとして、その先のアウトプットにどうつなげるかが現場の悩みどころです。Acrobat Studioではそこをどう設計していますか。
山本:まず前提として、現場で見過ごされがちなのが「コンテキストスイッチング」の負荷です。文章を読んで、別のAIにコピペして、さらに別のアプリで資料を作る。こうしたツール間の切り替えで、1日あたり約2時間が失われているという調査もあります。小さなことに見えるんですけど、積み重なると相当な生産性のロスになっている。つまり、ドキュメントをAIに渡す「入口」だけでなく、そこから理解し、アウトプットにつなげるまでの「一連の流れ」が分断されていることが大きな問題なんです。
だからこそ、アドビはAcrobat Studioという新たなプラットフォームを提供開始し、Acrobatを単なるPDFリーダーではなく「ワークスペース」として設計しています。ドキュメントの解析だけでなく、そこから考え、アウトプットまで一つの場所でつなげる。たとえば営業担当が新しい顧客にアプローチする場合、社内に溜まっている過去の契約書やお客様とのやり取り、相手企業の公開情報などをStudioに取り込むと、AIが横断的に解析してくれます。「この顧客にはこういうアプローチが刺さるのでは」というサジェストまで出してくる。それをPDFスペースでチームに共有して議論し、方針が決まったら、ボタン一つでAdobe Expressと連携してプレゼン資料を生成する。読解から戦略立案、成果物の作成まで、ツールを切り替えずに一つの中で完結できるんです。
AIグラフィックスの商用利用──問われるのは「使えるか」ではなく「どう使い分けるか」
──Nano Banana Pro、DALL-Eなど最新のLLMの画像生成は目を見張るものがあります。ただ企業がAIグラフィックスを商用利用するには著作権リスクがあり二の足を踏む企業もあります。どう考えれば良いでしょうか?
轟:著作権の問題は、生成AIの登場でその問題が改めて顕在化していますね。企業としてしっかり整理し直す必要がありますが、守りに入りすぎて何も使わないのも取り残されてしまいます。
Adobe Fireflyの学習データは、Adobe Stockのライセンス済みコンテンツなど、商用利用が許諾されたものを使用し、提供者にきちんと対価を支払い商用利用のリスクを担保します。さらに、Adobe Fireflyで生成したコンテンツに著作権上の法的問題が生じた場合、アドビが補償する「IPインデムニフィケーション(知的財産の補償)」を提供しています。法務リスクに敏感な企業にとって、導入の判断材料になるはずです。
その上で、大切なのは「アイデア出し」と「最終アウトプット」を分けて考えることだと思います。社内のブレストやコンセプト検討の段階では、どんなモデルでも自由に試していい。いろんなバリエーションを見ることがアイデアの幅を広げますから。ただし、最終的に社外に出すコンテンツ──広告やマーケティング資料など──には、権利関係が保証されたものを使っていただきたいというのが、われわれの提案です。
またFireflyボードでは、アドビのツールだけでなくサードパーティのモデルも選んで試せます。画面を切り替えずにいつものワークフローの中で使えるので、思考が中断されない。そしてアイデアが固まったらAdobe PhotoshopやAdobe Illustratorでの本格的な制作にシームレスに移行できます。「競合ではなく共存」という考え方ですね。
──実際に企業や自治体で、商用利用に安全なFireflyはどう活用されているのでしょうか。
轟:例えば和歌山市では、職員がAdobe Fireflyでご当地キャラクターを生成し、著作権のクリアな形で活用しました。不自然な部分はPhotoshopで修整し話題となり、最終的には本格的なプロモーション用にプロのイラストレーターに発注する流れができました。AI発のアイデアがクリエイターの仕事にもつながった好例です。
企業ではクラシエが「CRAZY KRACIE アンバサダー図鑑」という社内プロジェクトでFireflyとPhotoshopを活用。商用利用できるデータを選んで背景や合成に使い、安心してクリエイティブに取り組めたと聞いています。
