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AIがもたらす未来と企業の現実解

AIは劇薬か福音か。AI専門家のぐりゅうが語る日本企業のAIトランスフォーメーションの現在地

AI予算のポートフォリオ管理が勝負を分ける

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  ChatGPTが登場して以来、生成AIは私たちの社会に大きな変革をもたらしました。もはやAIは「使うか使わないか」を選択するものではなく、企業がサバイバルするための必須条件となっています。この変化の波は加速度的に速く、多くの企業やビジネスパーソンがそのスピードに追いつくことに苦慮しています。しかし、この非線形な進化の先に、私たちはどのような未来を描けるのでしょうか。本稿では、AI専門家である野口竜司氏へのインタビューを通じ、AI活用の現在地、そして企業がAIを真の味方にするための戦略とマインドセットを深掘りしていきます。

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AIがサバイバルの必須条件となった今、日本企業の現在地

──2023年のEnterpriseZine取材以降、生成AIは社会にどのような変化をもたらしましたか?特に、企業活動において最も顕著な変化と感じる点はどこでしょうか。

野口:かつてAIは、導入するかどうかの「選択肢」でした。しかし、今や企業が市場で生き残るための「サバイバル必須条件」になったことが、最も大きな変化だと感じています。AIを使わないことが当たり前ではない、そんな時代になったのです。この変化のスピードは非常に速く、線形的に適応しようとする人間の能力をはるかに超える非線形な進化を遂げています。

 刻一刻と状況が大きく変わるような現状に、多くの企業が戸惑いを感じているのも事実です。AIのポテンシャルが飛躍的に伸びているにもかかわらず、その活用が追いついていないのは、この変化の速度に対応しきれていないことに起因しています。

──OpenAIが提唱するAI普及の5段階マップ(※)について伺います。現在の日本企業全体はどの段階に位置しているとお考えですか?また、CAIOやAI戦略を立案する意思決定層の視点から見て、次の段階へ進むために、特に注視すべきポイントや、日本企業が乗り越えるべき壁はどこにあると見ていますか。

野口:OpenAIの5段階マップで現状を見ると、日本市場は「1.5段階目」あたりに位置していると見ています。これは、チャットボット(1段階)は超えているものの、AIがデータから推論する「リーズニングモデル(2段階)」を効率的に使いこなせている企業はまだ少ないという状況です。AIエージェント(3段階)による自律的な業務遂行や、AIが新たな発明を可能にする「イノベーター(4段階)」、そしてAIによるAIのための組織である「Organization(5段階)」といった高次の段階に到達している企業は限られます。

 一方で、AI自体のポテンシャルは既に「3.5段階」にまで達しており、新たな発明を生み出すことも可能なレベルです。この技術と現場の間のギャップこそが、日本企業が乗り越えるべき大きな壁だと言えるでしょう。技術者が3.5段階まで進んでいるにもかかわらず、現場が1.5段階にとどまっている現状は、喫緊の課題です。

OpenAIの5段階マップとブレークスルーの背景

──多くの企業がAI導入に意欲を示していますが、AIを使いこなしつつあり、次の段階へ進みつつある企業と、そうでない企業との間には、どのような本質的な違いがあると感じますか。その分水嶺は、技術力だけでなく、経営や組織のどのような側面に現れているのでしょうか。

野口:AIを使いこなし次のステージへ進める企業と、そうでない企業を分ける本質的な分岐点は、「AIエージェント」をどれだけ活用できるかにあります。そして、このAIエージェントを可能にした最大の要因こそがリーズニングモデルの登場です。

 AIエージェントは、単なる大量データの統計処理や文章生成を超えて、複雑な文脈を理解し、目的に沿った論理的な計画を立て、自律的に実行できるようになりました。これを支えているのが、思考の連鎖を模倣し、推論を積み重ねて最適解へと導くリーズニングモデルです。

 この進化によりAIは、ディープリサーチや資料作成、システム開発といった複合的なタスクを人間に代わってこなす存在へと変わりました。さらに、結果を自ら評価し改善する能力まで備えつつあります。そのためAIの内側でどのようなプロセスが起き、なぜその出力に至ったのかを人間が完全に把握するのはますます難しくなっています。

──技術的なブレークスルーの背景には何があったのでしょうか。

野口:この技術革新のトリガーとなったのは、OpenAIがモデルに「思考時間」を与えたことです。従来のスケール則では、データ量と計算量を増やせば精度が上がるとされていましたが、ある段階で知識の限界から行き詰まりを見せていました。``

 しかし、新しいスケール則では、AIに考える時間を長く与えれば与えるほど賢くなることが判明しました。これは、人間が難しい問題を解く際に時間をかけて深く考えるのと同じような概念です。この「思考時間」の導入により、AIは反復的な試行を繰り返し、推論能力を飛躍的に向上させました。

 IQテストで例えるなら、従来のAIがIQ80~90程度だったのに対し、思考時間を得たAIはIQ120レベルにジャンプアップしました。この革新によって、AIは計画を立て、実行し、自己評価を行うAIエージェントの機構を習得し、新たな発明や組織運営までを可能にするポテンシャルを手に入れたのです。

(※)OpenAI’s 5 Levels Of ‘Super AI’ (AGI To Outperform Human Capability),Forbes

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重要なのはAI予算のポートフォリオ管理

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この記事の著者

押久保 剛(AIdiver編集部)(オシクボ タケシ)

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年にスタートの「MarkeZine」立ち上げに参画。2011年4月~2019年3月「MarkeZine」編集長、2019年9月~2023年3月「EnterpriseZine」編集長を務め、2023年4...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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AIdiver(エーアイダイバー)
https://aidiver.jp/article/detail/6 2025/09/25 12:00

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