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AIがもたらす未来と企業の現実解

AIは劇薬か福音か。AI専門家のぐりゅうが語る日本企業のAIトランスフォーメーションの現在地

AI予算のポートフォリオ管理が勝負を分ける

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バランスの取れたリーダーシップが持続可能につながる

──AIの進化が進む中で、私たちはどのようなマインドセットを持つべきでしょうか。特に、個人レベルで準備すべきことはありますか。

野口:AIの進化がもたらす未来を想像すると、ワクワクと同時に不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、一つ確かなのは、個人と企業双方の側面からあらゆるものが「再定義」されるということです。これは、過去の知識や経験、成功体験を一度壊し、新しい価値観を再構築する「アンラーン」のサイクルを回すことを意味します。

 アンラーンができる人ほど、この変化の時代に適応しやすくなるでしょう。変化のスピードはインターネットの登場時よりもはるかに速く、日々新しいAIサービスが生まれています。最新のAIを使えば、驚くほど高度に画像生成、動画生成、音楽生成、スライド生成、AIコーディングなどができるようになっており、想像を超える進化を遂げています。この急速な変化の中で、アンラーンできる人とできない人では、3年後の未来が大きく変わってしまう可能性が高いです。変化を素直に受け入れ、楽しめる人こそが、この新しい時代でチャンスを掴めるでしょう。

──AIを企業の強力な味方にするために、特に意思決定層はどのようなリーダーシップを発揮すべきだと考えますか。

野口:AIを企業の強力な味方にするためには、バランスの取れたリーダーシップが不可欠です。AI活用を推進するリーダーは、単に効率性を追求するだけでなく、経営、文化、人材育成、そして働き方といった「人」に深く向き合う視点を持つべきです。AIを劇薬と捉え、長期的に持続可能な形で活用していくための戦略を練ることが求められます。

 例えば、AIによる効率化だけを追求すれば、一時的に営業利益率を向上させられるかもしれませんが、それによって従業員の雇用が不安定になったり、企業文化が損なわれたりする可能性もあります。これは、短期的な利益追求が社会全体の持続可能性を脅かすことにつながりかねません。

 日本の労働法が従業員の雇用を守る側面を持つように、AI導入においても、効率性と同時に「人の幸せ」を追求するバランス感覚が重要です。従業員エンプロイーエクスペリエンス(EX)の向上をAI活用の目標に据え、AIが従業員の体験を豊かにするツールとなるよう設計していくことが、最終的には企業のブランド価値を高め、社会全体の豊かさにも繋がるでしょう。

野口氏と創刊編集長の押久保。カメラマンに許諾を得て、AIで写真を加工している
野口氏と創刊編集長の押久保。カメラマンおよび野口氏の許諾を得て、AIで写真を加工した例

AI可処分時間、マルチAI戦略が注目

──今回の取材を通じて、CAIOやCAIOを目指すリーダー層に向けて、AI活用やAX推進に関して、最も伝えたい核となるメッセージをお願いします。

野口:AIを活用し、AXを推進する上で最も伝えたいメッセージは、「AI可処分時間をどう作るか」という視点です。個人レベルでも企業レベルでも、A新たに登場したAIやAIサービスを実際に使い試行する、AIとの時間を確保することが重要です。

 新しいAIとの時間を充分に確保することで、使いこなす能力がつき、意思決定の舵取りや業務への本格導入の実力が付きます。その後、AI導入によって作られた余白時間をまたAIとの時間を確保に充てるサイクルに入れると、継続的にAIとの創造が拡がっていきます。これを真剣に考え、実践していくことで、自然と「AIネイティブ」な組織へと変貌を遂げることができるでしょう。

──AI専門家として、今後ご自身が最も注目しているAIのトレンドや、AIを強力な味方にするために、読者一人ひとりが持つべき行動やマインドセットがあれば教えてください。

野口:注目しているトレンドとしては、特定の技術の採用よりも、先程申し上げた「AI可処分時間」の最大化にあると思っています。また、「マルチAI戦略」の重要性も高まっています。単一のAIプラットフォームに依存するのではなく、複数のAIツールやモデルを併用することで、それぞれの強みを活かし、タスクに応じて最適なAIを選択することが可能になります。

 例えば、Gemini、ChatGPT、Claudeを使い分けたり、複数のプラットフォームに同じ質問を投げかけて比較検討したりすることで、より高品質なアウトプットを得られます。AIの進化は非常に速く、昨日使えていたAIが明日には陳腐化する可能性もあります。そのため、柔軟にAIを乗り換え、常に最新のツールを取り入れる姿勢が重要です。AIを劇薬と捉え、その強力な効果を理解しつつも、人を中心とした持続可能な活用を目指すマインドセットが、これからのAI時代を生き抜く上で不可欠となるでしょう。

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この記事の著者

押久保 剛(AIdiver編集部)(オシクボ タケシ)

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年にスタートの「MarkeZine」立ち上げに参画。2011年4月~2019年3月「MarkeZine」編集長、2019年9月~2023年3月「EnterpriseZine」編集長を務め、2023年4...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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AIdiver(エーアイダイバー)
https://aidiver.jp/article/detail/6 2025/09/25 12:00

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