AI導入の目的はコストカットではない。むしろ人材投入のチャンス
AI活用が社内に浸透していく一方で、技術ドリブンで現場に使われない仕組みになるケースも珍しくない。エクサウィザーズの春田氏は、AI導入において「複雑化」が大きな課題だと指摘する。
「AIツールをつくっても、そのまま使えることは少ないです。その前段階にあるセキュリティや規約の整備は想像以上に大変。『どのデータを誰がどれだけ使って良いのか』といった、今まで考えてこなかったことの整理には時間がかかります」(春田氏)
加えて、昨今はAIエージェントの波が押し寄せている。AIエージェントの継続的な進化に合わせて、企業には周辺環境の整備や変化への適応が常に求められるだろう。こうした流れにどうついていくのか。やはり、技術側が「現場を知る」ことが欠かせない。
「当社はテクノロジー提供側として『現場で使われてなんぼ』と考えています。エンジニアと顧客のフロントに立つ人間の比率を同等にし、エンジニアがお客様や現場の課題を直接聞く文化を醸成することで、理解を深めています」(春田氏)
当然、企業経営やリーダーシップの在り方も変わらなければならない。細見氏は「『ガバナンス』と『現場』の二つに分けて考えるべき」と話す。
ガバナンスの観点では、まず「AIができる仕事はAIに任せるのは当然」という認識を持つことが重要だ。さらに、今まで「不可能」だと思っていた仕事が、AI時代には「難しいが実行可能」な仕事に変わる。その中で、企業が従業員に「自分がどういう仕事をすれば良いのか」を考えてもらう機会を生み出す。「結果的にプロジェクトなどの初速が上がり、生産性が向上するのは間違いない」と細見氏。
一方で、小売の現場に視点を変えると、デジタル化が進む中で「ヒューマンタッチをどこまで残すか」が次の大きな課題となる。細見氏自身は、買い物における「ぬくもり」をなくすことには反対だ。米国では、ヒューマンタッチの部分を削減した結果、売上が下降に転じたデータもあるという。そのため、企業全体と現場ではAIの使い方を分けるべきだと主張する。
「ヒューマンタッチが残る分野こそ、スキルが求められると思います。その高いスキルが必要な領域に人材をシフトするべきでしょう。今まで育ててきた人材は大きな投資です。それを活かす術を考えなければ。AIは業務効率化によるコストカットの文脈で語られがちですが、むしろ人材を新たに投入するチャンスが到来しているといえます」(細見氏)
AIによる省人化を目的とするのではなく、既存人材のリスキリングと再配置を通じて、企業の競争領域を広げる。これが、細見氏が示す先進的なリーダーシップの方向性だ。春田氏もまた、「AIリテラシーを高めるための教育を本気でやらなければならない」と話す。
「AIは、経験や知識の差を埋める役割を担います。だからこそ、社員が別の仕事の担当になってもすぐに活躍できるように、AI人材を育成するのは企業としての責務です」(春田氏)
細見氏は最後に、AI活用の道を切り拓くための実践的なアドバイスとして「自分で勉強するのは極めて難しい」と述べ、「社内でも社外でもナビゲーターになってくれる詳しい人を見つけたほうが良い」と強調した。
