競争優位の源泉へ投資を集中させる
石野:日本の企業がAIの実証を進めていますが、本格的にAIを活用していく上で、最も重要な取り組みは何だと思われますか?
福田:まずは「自社の競争優位をどこで生み出しているのか」を真剣に見極めることだと思います。つまり、自社の事業でどこが“差別化要因”なのかを明確にし、そこに投資を集中させることです。
「全ての企業はソフトウェア企業になる」と言われて久しいですが、日本はソフトウェアが圧倒的に弱いと感じています。先日ある米国の投資家が来日して2週間過ごした後にこんな感想をもらしていました。
「日本のハードウェアは素晴らしい。建築物や電車などインフラは何を見ても世界トップレベル。しかし、ソフトウェアのレベルは低い。デジタル体験は他の国と比べて劣っている」
例えば私は海外出張の機会も多いですが、機体や機内サービスは日本の航空会社は圧倒的に良いと感じる一方で、アプリを中心とした顧客体験は海外の航空会社の方が圧倒的に優れています。
日本は人的リソースによるサービスを良いものとしてきました。しかし、負の側面として安易に人に頼ってきたとも言えるのではないでしょうか。どの業界も人的リソースが不足している今こそ積極的にAIの活用を進める分野を決めて投資するべきだと思います。
石野:最近海外のECサイトで買い物をすることも増えましたが、問い合わせにAIが即時に対応し、必要な場合だけ人が介入するのが当たり前になってきているように感じますね。
福田:知人がガジェットのバッテリーの減りが早くなったので、チャットでサポートに連絡したところ、機器のリモート診断などスムーズに対応し、即時に交換品の発送までしてくれて対応の的確さやスピードに感心したそうですが、実は人ではなくAIエージェントの対応だったそうです。そういう“体験の差”が、競争力の差そのものになっています。
石野:米国企業では、AIによって仕事が置き換わり解雇されるというニュースも目にします。一方、日本企業では人員の再配置が課題になる可能性もありますが、ジェネラリストが多いぶん柔軟に動ける余地があるようにも思います。仕事については今後どうなっていくと思われますか?
福田:確かにその通りです。人の再配置力が問われます。米国は職務が明確な分、最適配置の設計が早い一方、職域が狭い人ほど転換コストが高くなります。日本はジェネラリストが多いことが裏目に出る時もありますが、役割の設計と学習の設計を合わせれば強みにもなると思っています。
日本の“ジェネラリスト文化”は時に弱点でもありますが、AI時代には強みにもなり得ますね。非競争領域の業務は標準化・自動化し、人間は競争領域へ再配置していくことが今後起こっていくのではないでしょうか。AIの登場で仕事を奪われるのはブルーカラーではなくホワイトカラーだという議論も出ていますが、改めて本質的に価値を産み出している仕事とは何かが問われます。
インターネットが登場した時も同じような事が起こりました。それまでは情報を持っている人に価値があったのが、Googleなどの登場で誰でも情報に簡単にアクセスできる時代になり、情報を自分だけで抱えているような人は淘汰されていきましたが、同じように価値のある仕事の定義が変わるでしょう。
石野:最後に変化が激しい中でどんなアクションが必要か。読者へメッセージをお願いします。
福田:頻繁に海外に来ていますが「現地で人と直接話すこと」が大事だなと改めて思っています。記事やSNSで得られる情報と異なり、現地で5人~10人と話すと点が線になり面になる。AIはキャリアでも産業でも数少ない“時代の節目”を生んでいます。だからこそ、現代のAIの中心地であるシリコンバレーの中心にいる人たちと直接対話し、一次情報に触れる価値は高いと思います。AIとの対話もよいですが、「直接話をすること」「一次情報に触れること」をおすすめします。
