AI戦略プロジェクトグループ始動。成果と直面した課題
では、Serendieの取り組みを踏まえ具体的にどのようにAI活用の推進を加速させているのだろうか。実践事例の紹介パートでは田中氏にバトンが渡され「生成AI×アジャイル開発:組織変革を駆動する実践と課題」と題した講演が行われた。

開口一番、田中氏は三菱電機がAI活用の推進を加速させる背景には、生成AIがもたらす「産業革命に匹敵するインパクト」への強い危機感があると強調した。
「世界的な労働人口の減少という社会課題に対し、生成AIによる生産性向上が一つの解決策として期待されています。しかし、日本の生成AI活用率は31%と、諸外国から大きく出遅れているのが現状です。これは、新しい技術に対する抵抗感や、既存のやり方を変えたくないという文化が根強いことが要因だと考えられ、強い危機感を抱いています」(田中氏)。

この課題を乗り越えるため、三菱電機は「AI戦略プロジェクトグループ」を2024年2月に立ち上げ、エンタープライズアジャイルの取り組みを推進。これは、アジャイル開発の手法を組織全体にスケールさせ、経営層から現場までが一丸となって価値創出を高速で繰り返す仕組みだ。

従来のウォーターフォール開発では、計画段階ですべてを決め、その計画通りに実行することが求められるが、変化の激しい現代では、ゴールが途中で変わると「手戻り」が発生し、かえって効率が悪くなる。
アジャイル開発では、小さな単位での開発とリリースを繰り返し、ユーザーからのフィードバックを得ながら改善を進めていくため、ゴールが不確かな状況でも迅速に価値を提供できる。このアジャイル開発と生成AIの組み合わせこそが、伝統的企業が俊敏性を獲得し、イノベーションを駆動する鍵だという。
AI戦略プロジェクトグループは、生成AIを活用した業務改革プロジェクトを60件以上実行しており、既に具体的な成果を上げている。たとえば、事業戦略策定業務では業務スピードが2.5倍に向上 。人事部門の問い合わせ対応業務では、業務効率が50%改善された。


これらの成果は、わずか3ヵ月という短期間でPOC(概念実証)からMVP(実用最小限の製品)へと開発を進め、全社展開に向けた第一歩を踏み出している。一方、田中氏は「この変革の道のりは決して平坦ではなかった」と本音を明かす。具体的には次の3つの課題を感じたという。
- ウォーターフォール開発に慣れ切った体質:計画至上主義の文化が根付いており、アジャイルの考え方を浸透させることが難しかった
- 「発注者」─「受注者」が混ざったチーム:親会社・子会社という上下関係の慣習が、全員が一体となる「One Team」の実現を難しくした
- 業務部門が非テック系:プロダクトオーナーとして任命された業務部門のメンバーが、技術的な知見やアジャイルの経験がなく、プロダクトの具体的な仕様をまとめるハードルが高かった
これらの課題に対し、同社は全関係者を対象とした大規模なアジャイル研修を実施。関係づくりのための声かけを徹底した。また、プロダクトオーナーを支援するテックリードや、品質を担保するクオリティエンジニアをチームに配置し、非技術者でもプロジェクトを推進できる体制を構築したという 。

