人間は完璧ではないのに、なぜAIには完璧を求めるのか 活用が進む企業の共通点
佐野氏は「日系企業でAI活用が進みきらない原因は、PoCの設計に問題がある」と指摘する。AIは、最初から完璧なアウトプットを生み出せるわけではない。共進化の考え方にあるように、学習を繰り返して精度を上げるものだ。それにもかかわらず、多くの企業は、最初の段階で期待していた高いアウトプットが得られず、導入を諦めてしまう。
「人間は完璧ではないのに、AIには完璧を求めてしまいがちです。人間だけでやるよりも効率が上がるなら、現在の精度が60%や70%でも思い切って導入したほうが良いと思います」
一度AI活用を諦めてしまうと、そこからの立て直しは容易ではない。仮に思ったような成果が得られずとも、PoCの方向性や現状のオペレーションを繰り返し見直して、継続できるか。技術力以上に忍耐力が問われる。
「経営層が『最初はそんなものだ』と割り切って引っ張っているのが、AI活用が進んでいる企業の特徴の一つです」

また、現場にとっては別の課題がある。DX推進部の担当者たちは、上司から「うまくいっているのか」と成果を問われる場面があるが、最初につまずいた場合「次はできます」とはいえないのが現実だ。そこで、評価指標に導入の成果だけでなく活用度合いを加えるなど、経営層が社員に「AIがどう使えるのか」を考えるよう促すケースも増えつつある。
「現場の課題を解決しながら全社的にAI活用を推進するには、ハイレイヤー層による旗振りが不可欠です。その上で、DX推進部などが具体的に仕掛ける。そして、現場の事業部門を巻き込んでいく。トップダウンとボトムアップ、両方が必要となります」
最近では、新たに「CAIO(最高AI責任者)」を設置する企業が現れはじめた。今後、彼らがAI活用推進の旗振り役になると考えられる。日本では、CDOやCIOがCAIOの役割を包含するともいわれるが、「CIOとは分けたほうが良い」と佐野氏。
「CIOは情報システムなど、“守り”の部分にフォーカスしなければなりません。AI活用においても、セキュリティ面などが重視されるはずです。それに対して、CAIOがフォーカスするのは“攻め”のAI活用。AIで事業をどう変えるかを考えるのが仕事です。CAIOと聞くとトレンド感がありますが、形から入るのは悪いことではないと思います。社員や株主、顧客に『この会社は変わる姿勢がある』と明確に示すチャンスです」
このようなAI推進のリーダーには、何が求められるのか。佐野氏は「AIにそこまで詳しくなくても良い」と語る。それよりも、今何が起こっていて、世の中がどう変わるのかを理解する力が必要だという。
たとえば、将来的に「LLMネイティブ」が顧客となれば、AIに「新しい洋服が欲しい。何がおすすめ?」などと聞いてからECサイトに訪問するのが、主流になるかもしれない。こうした変化を捉え、AIを取捨選択しながら戦略を練るのがCAIOやCDOといったリーダーたちだ。一方で、技術的な側面は現場に任せ、マネージャー層がAIでプロトタイプを作るなど、率先して活用していく流れを作る。
変化にいち早く気づき、方向性を決め、指示を出す。AIという新たなツールが登場しても、リーダーに必要な資質は、これまでと何ら変わらないといっても良いだろう。