「仕組みづくり」が肝要に 経済産業省のプロジェクトでも議論
生成AIとクリエイターの対立を解消し、健全な利活用を進めるためには「主権」の回復が必要だ。日本の著作権法第30条の4は、一定の範囲で権利者の許諾なしに学習利用を認めているが、そこには「著作権者の利益を不当に害する場合」は例外とするただし書きが存在する。とはいえ、コンテンツが溢れるようになった世の中、個々のクリエイターが自らの権利を主張しつづけるコストは、あまりにも高い。
ここで重要となるのが「意思表示の仕組み化」だ。クリエイターが「自身の作品をAIに学習させるかどうか」という意向を容易かつ効率的に表明できる、新たな社会インフラが求められている。
現在、経済産業省が推進する「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」プロジェクトにおける「データエコシステム構築」の試みでは、その仕組みの具現化を模索中だ。アマナイメージズを傘下にもつVisual Bankでは、同プロジェクトのコンテンツ領域を担当し、マンガ・アニメ領域などでの新たなデータセット構築に取り組んでいる。
「現在、AIの推論環境における責任はユーザーにほぼすべて転嫁されている。しかし、生成されるコンテンツ量は、あまりに膨大だ。『生成してほしくない』という方々が意思決定できる場としての新たなプラットフォームを構築することで支援していきたい」 (望月氏)
このプラットフォーム構築では、大きく下記3つの観点からクリエイターの権利を保護していくねらいだ。
- 公式管理下のライブラリ化:権利者が自らの権利を確保しながら、AIモデルの開発者などに、適切な対価で正しいデータを届けるための公式窓口の整備
- システムによる意思反映:AIモデルの開発や推論の段階において、権利者の許諾状況(オプトイン/オプトアウト)が技術的に照会・反映される仕組みの導入
- 適正な利益還元:学習を許諾した権利者に対し、適切な対価が支払われるためのシステムの確立
生成AIの利用が「ユーザーの自己責任」に委ねられてきた中、権利者がAIに対する主権を取り戻すための取り組みは必須だ。そうした中、避けて通れないもう一つの議論が「二次創作文化」との比較だろう。これまでの二次創作は、必ずしも明確な法的許諾に基づくものではなかったが、作品への「愛」や「理解」を前提とした“曖昧なバランス”の上に成り立ってきた。もちろん、コミュニティの盛り上がりがクリエイターの活動を支え、日本の文化を根底から支えてきた事実は否定できない。
では、AIによるコンテンツは二次創作となるのだろうか。望月氏は、「二次創作が良いか悪いかは、最終的には『愛があるか』に集約されてきた側面も強い。しかし、AIによって誰しもが“模倣度の高い”作品を大量に作れるようになると、従来の照らし合わせ方では対応しきれなくなる」と語る。
われわれがAIコンテンツと対峙していく際、その根底にある「表現者への敬意」を忘れてはならないだろう。あくまでもAIは表現を拡張するものであり、クリエイターの権利を侵食するものであってはならない。現在、氾濫するAIコンテンツによって、クリエイターが筆を折るような事態になれば、それは社会にとって最大の損失となる。
だからこそ、意思表示の素地すらできていない「フェーズ0」の段階から、クリエイターや権利者が自らの意向を反映できる「フェーズ1」へと進むためには、技術の枠を超えた社会実装が不可欠だ。もちろん、ビジネスの現場でAIの実装を担う担当者にとっても、これは対岸の火事ではない。今後、企業が採用するAIモデルがどのようなデータで学習され、権利者の意思がどう反映されているかという透明性を担保することは、企業の倫理観を問う新たな基準となる。
AIコンテンツが氾濫する今、技術と人間が互いの尊厳を損なうことなく共生し、新たな文化を紡いでいくための方策を考えなければならない。
