AI時代に「理論」が必要な理由 世の中を見通す力のつけ方
栗原(Biz/Zine編集部):まずは自己紹介をお願いします。
入山章栄氏(以下、敬称略):早稲田大学ビジネススクールで教授をしています。経営学者として教育や研究を行う傍ら、様々な企業のアドバイザーなども務めています。今、AIによって日本の経営がどのような状況となっているのか。こういった領域においては、かなり解像度が高い人間だと思います。
栗原:AIが浸透していく中で、企業経営はどう変容しているのですか。
入山:私は2019年に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)を出版しました。非常に分厚い本にもかかわらず、今では15万部超えのベストセラーです。これは過去に『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』で連載していた内容を再編集して書籍化したものですが、実は改訂版を出すために2025年の春から同紙で連載を再開しています。
復活連載の第1回で書いたのが「AI時代こそ、世界標準の経営理論である」ということでした。これから答えがあることは全部AIがやります。そのため、人間がやることは答えがない領域で意思決定をすることでしょう。誰も正解を知らないため、自分で考えるしかないわけです。そのときに「理論」は必ずしも正解ではないものの、物事を整理する思考の軸として非常に役立ちます。実際、『世界標準の経営理論』の本質はAI時代でもまったく変わっていません。『世界標準の経営理論』によって、これから世の中がどうなるのかをある程度見通せるのです。
世の中には「現象」があります。AIも一つの現象です。この現象起点で考えていると、それに追いつくだけで疲弊して、受け身になってしまいます。いわゆる「演繹」で、理論的に「組織や人間の本質とはなんだろう」という方向から考え、「であればAI時代にはこういう未来があるのではないか」と、自分で能動的に予見する力をつけること。それが人間にとっては重要になります。
栗原:そもそも『世界標準の経営理論』を改訂しようと思ったきっかけは、なんだったのですか。
入山:今思えばもっと盛り込みたい要素があった点が1つ。もう1つは、実は世界で売ってみたいと思ったから。最後に、時代が変わるとより大事な視点が見えてくると考えたからです。たとえば、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の2026年2月号で私が取り上げたのは「直感の理論」でした。AI時代、人間に必要な能力は間違いなく直感です。直感力を鍛えなければならない。そこで、神経科学の分野で研究成果が出ていて、一部は経営学にも応用されている「直感の理論」を紹介したのです。
栗原:同様に、AIと経営学において改めて注目度が高まっている理論はありますか。
入山:最近、周りの起業家や経営者たちとよく議論しているのは、経営学者・野中郁次郎氏が提唱された「知識創造理論」です。これは「暗黙知」を「形式知」化するというもの。文字や言葉のような形式知は、実は人間の感覚や感性や考えていることのごく一部にすぎません。ほとんどは、身体知も含めて言葉になっていないわけです。人間は暗黙知のほうがはるかに豊かだといえます。
野中氏の考え方では、人と人が1対1で向き合うと、そこに共感性が生まれる。共感性は暗黙知と暗黙知です。それがなんらかの理由で形式知化され、新しい言葉が紡がれることによって、イノベーションが生まれるのです。私がAIの専門家と話していると、結局人間に重要なのは身体性だという結論に行きつきます。これも暗黙知です。そのため私は、AI時代こそ「知識創造理論」がもっと応用されるべきではないかと考えています。
