「UI/UXをAI向けに」ではなく、そもそもUI/UXは不要になる?
──「SaaS is Dead」の議論は一度盛り上がり、今また再燃していますよね。第1波と第2波で何が変わったのでしょうか。
TOKIUM 黒﨑賢一氏(以下、黒﨑):「SaaS is Dead」の始まりは、マイクロソフトのCEO サティア・ナデラ氏の発言だといわれています。「AIがUIを見ずに業務を遂行できる時代がくる」というイメージが共有されたのが第1波でした。しかし、当時はまだAIの精度が高くなく「LLMが進化すれば実現するかもしれない」という可能性の話にとどまっていたのです。
それに対して、第2波で現実味が帯びたのはデモが示されたからでしょう。Claude「Computer Use」の登場をはじめ、AIエージェントが大きく進歩しました。ExcelやスプレッドシートをAIが操作したり、各種サービスにセキュアにログインしたりできるAIツール群がこの1年で急速に整備されました。
そもそもSaaSは、人間向けにUI/UXを作ってきた業界です。それが付加価値だったといえます。ところが、AIエージェントが業務を実行するようになると、画面を誰も見なくなりますよね。AIにとってUIは邪魔でしかありません。APIやCLIで直接データにアクセスするほうが速くて確実だからです。人間向けの画面があるということは、AIエージェントからすれば余計なステップが発生するだけ。そう考えると、今まで積み上げてきたUI/UX の資産がゼロ、もしくはマイナスとして評価されるものになってしまいます。そんな状況が現実になろうとしており、株価にも大きく影響しているというのが実態です。
──やはり、この状況に危機感を抱いている企業は多いはずです。これまで作り込んできたUI/UXが不要になるという点もありますが、特に何が課題となっているのでしょうか。
黒﨑:根本的な課題はソフトウェア製造コストの激減です。つまり、ソフトウェアの価値が低くなってきているのです。そもそもSaaSというビジネスモデルが成立した理由は、オーダーメイドのソフトウェアを作るコストが高かったから。だから1,000社、1万社が使える共通システムを作り、そのコストを分担することで提供側は規模の経済を得られ、利用側は安価に使えました。一方で、AIによって製造コストが限りなくゼロに近づくのであれば、最初から1社1社にオーダーメイドのシステムを作っても採算が合います。今までのように、SaaS企業が大量のエンジニアを抱えて「みんなを代表して経費精算システムを作る」意義がなくなってきているのでしょう。
──とはいえ「SaaS is Deadは起こらない」という意見のほうがよく目にします。実際に業界にいる身として、どのように捉えていますか。
黒﨑:どの業界、職種でもなんとなく「やばい」と思っている人は多いはずです。私自身、自分の仕事はほぼ全自動化されそうだと感じています。ただ、純粋なソフトウェアの会社が「SaaS is Dead」と語るのは難しいのが現実です。正直なところ、当社の場合はSaaS企業であるという認識が薄いから話せるのかもしれません。料金体系はアカウント数に応じた課金ではなく従量課金が基本。たとえばレシートを1枚1枚スキャンしてデータ化し、倉庫に保管しておくといった作業や業務の成果で報酬を得るビジネスモデルであるため、ソフトウェアを売っているとは思っていないんです。
