小さく始めて大きな成果を。AI活用の成功事例をつくる秘訣
押久保:これまで上野さんが試行錯誤されてきた中で、やって良かったこと、あるいはすぐに取り入れやすい具体的なヒントについて教えていただけますか。
上野:一番効果的だったのは、小さな事例を先に作ることです。AIオペレーション室では、開発者が事業部メンバーと組み、2~3人程度の小規模チームで「この課題をAIで解決する」と決めてやり切っています。そうしてできた実例を社内に展開すると、「うちでも試したい」という声が自然と出てきました。小さくても、業務で本当に役立つ事例を作ることが大切です。
押久保:事例を作るには事業部の協力が必要になると思いますが、どんな組織に声をかけていますか。
上野:導入メリットが大きい組織ですね。たとえば小規模の子会社で、営業メンバーがAI活用で担当顧客を2倍にできれば売上も2倍になる、といった経営インパクトが大きい組織を見つけると、AI導入の効果を実感してもらえます。

野口:AIオペレーション室との取り組みを待たずに、自発的に始める人もいるのでしょうか。
上野:はい。AIオペレーション室があるからといって、私たちも中央集権的にやっているわけではなく、各事業部でも自由と自己責任でさまざまな取り組みが進んでいます。
開発者がいるチームは取り込みが早いですが、ビジネス部門にも「AIならできるかも」と挑戦する人がいます。そうした組織にはDifyを提供し、合宿形式で一緒に構築を進めます。エンジニアがいなくても効率化を実現できるよう、最初の一歩をサポートしています(参考記事)。
野口:成功事例は、どのように共有しているのですか。
上野:事例の規模にもよりますが、小さいものは役員会などを待たずにSlackで共有してしまいます。たとえばMCP(Model Context Protocol)とSlackを連携した活用方法を動画にまとめて投稿したメンバーがいました。そうした実例を見ると、周囲も「これいいね」と動き始めます。
今後の最重要課題は「個」の育成。挑戦を後押しするカルチャーの力
押久保:最後に、今後の展望について教えてください。
上野:わかりやすい例で言えば「シーエーアシスタント」のように、AIありきで業務を再設計し、成功例を積み上げていきたいです。これが経営インパクトにつながります。
そのためには個々の社員のAIに対する解像度を高めることが不可欠です。より多くの社員が活用の可能性を考えられるようになれば、一部の人間だけで議論するよりも大きな広がりを生みます。したがって、AIを活用できる人材の育成がこれからの最重要課題だと考えています。
押久保:野口さんから見てサイバーエージェントさんの取り組みはどう映りましたか。
野口:様々な会社のAX推進に関わっていますが、サイバーエージェントさんは、技術と共に事業を作り上げられる若手を抜擢していく「抜擢力」が、群を抜いていると感じていましたが、まさにそれを実感しました。今後もAIを用いて事業を変革できる人材を、どんどん抜擢していただきたいです。そうした変革に柔軟に対応できるカルチャーをお持ちなのは、今の時代の大きな強みではないでしょうか。
上野:確かに年功序列を排除し、自由と自己責任で事業に向き合う文化は、AX推進に合っていると思います。「チャレンジしないほうが悪」「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」という考え方も浸透しているので、新しい挑戦へのハードルは低いですね。
生成AI徹底活用コンテストも2回目を開催し、普段AIに関わらない部署からも多くのアイデアが集まっています。そこから新しいプロジェクトや人材のアサインが生まれ、個人のキャリア機会も広がっていくと嬉しいですね。挑戦の回数が増えることこそ、組織全体の力になると考えています。
押久保:最前線で取り組まれているからこそのリアルなお話、大変勉強になりました。ありがとうございました!