AI時代のビジネスの創り方 ブランドも“押し活”が鍵に
入山:今は「限界費用ゼロ社会」といわれていますよね。これまでは、モノを作れば作るほど追加コストが上がる時代でした。これが、今いろんなIT技術やデジタルサービスのおかげでフラットになってきています。たとえば、映画館に行かなくてもAmazonプライムで見放題です。テレビを買わなくても、スマートフォンがあれば良い。食べ物も、コンビニで安く美味しい総菜が買える。つまり、需要が高いモノでも安く手に入れられます。それによって余分に使えるお金が増えているのです。
わかりやすい例で言えば、若い世代ほど費用対効果という感覚が希薄です。彼らは共感性にお金を払う傾向がある。だから推し活をします。
ブランドも推し活といえます。その成功例がLVMHやエルメスです。『Forbes』が毎年発表している世界長者番付のトップ10に、LVMH 会長 兼 CEOのベルナール・アルノー氏が入っています。ランキング上位のほとんどはイーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏のように“便利”を作った人たちです。その中にアルノー氏が入っている。これはつまり、ブランド品に価値が出るということです。
そして、最近LVMHの時価総額を抜いたのがエルメスです(2025年4月)。日本だとエルメスの強みは「小ロット」で、どんどん新商品を出します。すると、ファンの方は毎回店舗に行ってチェックしなければならない。これをエルメスパトロール、通称「エルパト」と呼ぶんです。こうやってビジネスを作っていく。
現場が強い日本企業 これからがチャンスといえるワケ
入山:先日、トリドールホールディングス 社長の粟田貴也氏とお話しさせていただいたのですが、「これから食はエンタメだ」とおっしゃっていました。「絶対に間違っていません」とお伝えしました。
デジタルで奪われるものは視覚と聴覚です。反対に味覚、触覚、嗅覚は当面奪われる心配はない。であれば、これからのビジネスは五感全体で訴求すれば良いのです。街はもっとグルメシティにすべきですし、香りのビジネスもニーズが高まると思います。食は究極の味覚、嗅覚ですよね。スポーツは触覚です。これらがAI時代に生き残るビジネスでしょう。
栗原:こんな時代でもまだ発展していく業界も結構ありますね。そこにどう転生していくのか。大企業の経営は難しい戦いをしていかざるを得ないようにも捉えられますが、どうすれば良いのでしょうか。
入山:2025年の2月頃に、世界的な経営学者であるジェイ・B・バーニー教授と対談させていただいたんです。その少し前に、バーニー教授がボストン コンサルティング グループのマーティン・リーブス氏と、アメリカの『ハーバード・ビジネス・レビュー』で「生成AIは企業の競争優位の源泉にはならない」という論文を出して話題になりました。私はそのとおりだと感じています。
結局、AIを使っているだけではなんの意味もありません。誰もが使うようになるからです。押さえるべきは、AIが学習していない各社が持っている固有の価値と、AIをいかに組み合わせるかです。バーニー教授はその点で日本企業に非常に期待をされていました。日本は現場が強いからでしょう。特に製造業は暗黙知の塊です。あのようなハードをすべてAIで作ることはできません。日本企業は変革さえすれば、チャンスは本当に大きいのです。
