AIが奪えない人間の直感 磨き上げるには?
栗原(Biz/Zine編集部):前回に引き続いて、AI時代に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)の中で押さえておくべき理論を教えてください。
入山章栄氏(以下、敬称略):前回紹介した野中郁次郎先生の「知識創造理論」に加えて、「知の探索・知の深化の理論」です。今の時代はイノベーションを起こさなければなりません。イノベーションとは知と知の組み合わせなんです。とはいえ、人間は認知の範囲が狭いために目の前の知しか組み合わせていない。それではイノベーションが起きないため、遠くの知をたくさん見て持ち帰り、組み合わせることが重要です。それを私は「知の探索」と呼んでいます。
しかし、知の探索は非常に大変な作業です。人間や組織は、既にうまくいっているものを深掘りする、つまり「知の深化」ばかり行う傾向があります。AIはこの「知の深化」が非常に得意で、むしろ「知の深化」しかできません。つまり「知の深化」をすべてAIに代替してもらい、「知の探索」に人のリソースを割り振ったほうが良いのです。
さらにいえば、前回取り上げた「直感の理論」も重要です。結局のところ人間は、論理ではAIに勝てません。ではどこで価値を生み出すのか。それが直感です。
直感は、大きく3つの要素で生まれています。1つ目が「反復」。ひたすら大量のパターンを見て認識することです。2つ目が、人間のパターン認識をもとに「推論」すること。そして3つ目が「価値判断」です。つまり、推論しても、それが良いか悪いかの判断は最終的に主観なんです。
1つ目のパターン認識は、今AIに代替されつつあります。2つ目の推論はまだ代替されてはいませんが、今後代替される可能性があります。AIが推論をできるようになると、たとえばその機能を「ヒューマノイド」に搭載するわけです。自分で意思決定できるロボットが生まれ、人間の大部分をAIが代替することになるでしょう。
ただし、最後の「価値判断」だけはAIに代替されません。なぜなら、価値は主観だからです。AIに主観はないですから。では、その主観はどうやってできているのか。よく考えれば、脳は内臓と密接につながっていますよね。「やばい」と思ったときに「胸騒ぎがする」というように、主観は臓器の感覚なんです。「緊張で胸がドキドキする」「なんとなく腹落ちしない」などを、内受容感覚ともいいます。つまり、人間にとって最終的に重要となるのは「内臓」です。AIは内臓を持っていません。だから永久に価値判断はできない、というのが私の考えです。
そのため、人間が当面やる仕事は内受容感覚を高め、直感を磨くことだと思います。経営者や起業家には運動好きの方が多いですが、おそらく内受容感覚を高めるために無意識で行っているのではないでしょうか。
また、再開した『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』での連載の中で「組織感情の理論」にも改めて触れました。これからの時代、感情は非常に重要です。
私はよく講演で丸亀製麺を例に説明しています。なぜ丸亀製麺が美味しいのか探っていくと、AIやデジタル技術によって現場の方の仕事が楽になっているからです。結果的に店舗でうどんを打つことができます。また、店員がお客様の接客に100%の力を注げます。
ロイヤルホールディングス 会長の菊地唯夫氏も「人類は長い間肉体労働やっていました。しかし、それをロボットがやってくれるようになり、頭脳労働もAIがやってくれるようになりました。残る仕事は『感情労働』です」とおっしゃっていました。感情をうまく出す、感情で人を引きつけられる人に価値が生まれるわけです。
