実践的プロンプト作成の7つの指針

橋本氏はプロンプトの基本パターンを5つに整理する。最もシンプルなのはZero-shot(ゼロショット)で、基本の指示のみを与える方法(例:「SF小説を書いて」)。次にFew-shot(フューショット)は、少数の例や条件を与えることで精度を高める(例:「誰々さんみたいなSF小説を書いて」)。Chain of Thought(思考の連鎖)は段階的に思考させる手法、Self-Consistency(自己整合性)は複数の推論経路から一貫性のある答えを導く。そして外部ツールの呼び出し(ReAct)は、計算やWeb検索など外部機能を活用する方法だ。
橋本氏がこの動画で紹介した実践的な指針をまとめてみよう。
1. ベクトルの要素と大きさを漏れなく伝える:3分で書くかテンプレートで書くかはあまり関係ない。とにかくその要素が入っていて、それぞれの要素の大きさ・強さがどれぐらいかを伝わる文章を入れることが重要となる。
2. 専門分野では詳細なプロンプトを書く:自分が専門家の場合、知識があるため詳しい長いプロンプトを書くとうまくいく。一方、知識がない場合は「手続き型知識」をAIから引き出すため、大きな目的を伝える方が良い。
3. 難しい仕事を一発でやらせない:AIが70%の精度で仕事をする場合、3段階に分けると34.3%の出来になり、5回やると16.8%になってしまう。しかし各段階が90%の確実なプロンプトなら、3回繰り返しても72.9%の合格点が得られる。
4. 工程ごとに人間が介入する:AI任せにせず、1工程ごとに結果を確認し、必要なら人間が編集して90%の出力に修正してから次の工程に進む。
5. 確実なプロンプトの並列実行:「経年で毎年同じことを調べさせる」「100社のリストを与えて同じタイプの調査を100社分させる」など、1社ずつ調べることが保証されている作業を並列で実行させる。ディープリサーチと組み合わせると特に効果的だ。
6. ReActを積極的に起動する:「Web検索して」「Pythonで計算して」とツール名を明示することで、正確な情報を得られる。これを怠ると、ハルシネーション(事実と異なる生成)のリスクが高まる。
7. DIMT(Do It Many Times):橋本氏が作った造語。「画像生成などで1,000枚ぐらい同じ画像を出すと、神の1枚みたいな奇跡の1枚が出てくることがある。同じことをたくさんやらせると中には良いものが出てくる」。マシンパワーの戦いになるが、テーマによっては極めて有効だという。
ゼロプロンプト時代の到来とプロンプトエンジニアリングの復活
橋本氏は今後プロンプト工夫の必要性は減っていくだろうと予測する。RAG(専門知識追加)、MCP(外部サービス接続)、推論機能、マルチモーダル、AIエージェントなどの発達で、文脈情報を言葉で詳細に与える必要がなくなっていく。
しかし橋本氏はここで逆説的な主張を展開。ゼロプロンプト環境になると、「逆に差別化としてプロンプトエンジニアリングが復活するはずだ」と言う。理由は明快。ゼロプロンプトになると全員が同じ土俵に立つ。「そうすると、その段階で作られた提案書なんて差別化ができないから意味がなくなってしまう」と橋本氏。そうなってくると逆に差別化するために違うものを作ったり、出し抜いたりすることが重要になる。また人間の頭脳をプラスすることが競争上必要になってくる。