AI活用の源泉となる「顧客コンテクスト」の正体とは
では、企業はどのようにAIを活用すればよいのか。西村氏は、「ビジネスの根幹は、『お客様がなぜ自社の製品・サービスを選んでくれるのか』を深く理解することにある。これを『顧客コンテクスト』と定義し、企業競争力の源泉になると考えている」と語る。CDPなどに保存されている顧客の属性情報だけではなく、顧客行動の意図や背景、過去の行動、そして現在の興味・関心などを含めたものが「顧客コンテクスト」だ。
また、顧客コンテクストは時間軸によっても大別できるという。一つは、年単位での変化が見られるような「ロングコンテクスト」だ。たとえば、顧客が好むファッションスタイルや色彩、ライフスタイルなどがこれに当たる。もう一つは、イベントや一時的な感情に起因するような「ショートコンテクスト」。たとえば「来月の卒園式に向けてフォーマルな洋服を買う」といった緊急性の高いニーズは、イベントが終了すれば消失してしまう。企業がこれら長短のコンテクストを掛け合わせた顧客コンテクストデータを整備し、AIで活用していくことが重要だとする。
多くの経営層は「売上の構成」を商品別やエリア別に即答できても、「自社が本当に大切にすべき顧客層は誰で、どのような文脈で商品を購入しているのか」という問いに対しては、回答者ごとに答えがバラついてしまうことも珍しくないだろう。
金融機関であれば「金利を下げれば顧客がとれる」、旅行代理店であれば「航空券とホテルを安く提供すればいい」といった機能的な価値提供に固執しがちだ。しかし、顧客の行動原理はもっと複雑だ。たとえば、同じ「住宅ローン契約者」であっても、人気物件を逃さないために審査スピードを重視する層と、団体信用生命保険による健康リスクを重視する層とでは、商品を選ぶコンテクストがまったく異なる。前者は金利上昇のニュースなどに反応して即日審査を求め、後者は「共働きのリスクに関するニュース」に反応して充実した補償を求める。
とはいえ、こうした複雑なコンテクストを人手ですべて分析することは不可能に近い。そこで、POSデータやCRMといった構造化データに加え、SNSのトレンドや天気、ニュース、顧客のアンケート(VoC)といった非構造化データをLLMに読み込ませることで、AIは顧客のコンテクストを自動で理解し、メタデータとして付与できる。
プレイド 安野智裕氏は、顧客コンテクストを活用したアプローチは、これまでのAI活用とは本質的に異なると強調する。
「これまではAIチャットボットの導入によるサポート工数の削減など、主にコスト削減や業務効率化を求めるアプローチが主流だった。しかし、顧客コンテクストにAIを用いることで、売上拡大に寄与できる。コスト削減のAI活用から、企業競争力を高めるための本質的な価値創出へと転換可能だ」(安野氏)
では、企業はどのようにして顧客コンテクストを構築すればよいのか。安野氏は、下図のような3層アーキテクチャを示す。最下層はデータウェアハウスなどのインフラ層、上層はAIエージェントなどのアプリケーション層、そして中間層はローデータを解釈して意味付けするためのセマンティックレイヤーだ。プレイドでは、この中間層を「Context Lake」と定義する。
Context Lakeでは、企業が蓄積しているデータと外部データを統合し、顧客一人ひとりの行動や意図をベクトルデータに変換。画像やテキストといった非構造化データは数値ベクトルに変換し、AIを用いたベクトル検索によって「ハワイで着るモノトーンな服」「このあいだ買ったものに似合う服」といった抽象的な顧客のニーズに対する、精度の高いレコメンドやアプローチを実現していくという。
なお、セマンティックレイヤーを用いたアプローチは、基盤となるデータウェアハウスがBigQueryであってもSnowflakeやDatabricksであっても問題なく、利用するLLMもGeminiやOpenAI、Claudeなど目的に応じて最適なものを選択できるコンポーザブルな設計思想も特徴だ。つまり、ベンダーロックインを回避しながら、これまでの投資を無駄にすることはない。
