AIエージェントが「できなかったこと」を動かし始めた──NECの8万時間が示す転換点
──一昨年からRAGの構築に取り組む企業も多かったと思います。現在は、企業のAI活用は今どのフェーズにあるのでしょうか。
北瀬:単純な検索の延長としてのRAGにとどまらず、AIに期待される活用の幅が広がってきました。Gemini Enterpriseのようなローコード環境で、ビジネス部門がエージェントを作れるようになった今、「検索が便利になった」ではなく「タスクをある程度任せる」段階に入りつつあります。
Gemini Enterpriseの構成を簡単に説明すると、頭脳としてのGeminiモデルの上にガバナンス・セキュリティの層があり、さらに企業データへのコネクターを備えています。Google Workspaceだけでなく、Microsoft製品やConfluence、Jira、Salesforce、ServiceNowなど他社製品との連携に対応しており、今後はさらに増える予定です。その上にGoogle製エージェントやパートナー製エージェント、ローコード・ノーコードでの自作エージェントが載る構成で、企業がAIエージェントを活用するためのハブになっています。
──エージェントが実際に業務を変えた事例はありますか。
下田:NEC様の事例がわかりやすいですね。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応で、約2,000拠点の環境調査レポートを作成する必要がありました。1拠点あたり約40時間、合計約8万時間という膨大な工数で、従来は2拠点しか対応できていなかったものを、ADK(Agent Development Kit)とGoogle Cloudを使ってエージェントに自律的に実行させたのです。
NECのこのプロジェクトのもう1つの成果は、浮いた時間で担当者が各工場を回り、データだけではわからない情報を現場からヒアリングできるようになったことです。しかもこの取り組みはNECの外販事業にまで発展しており、自社の課題解決がそのまま新規事業につながるという好循環が生まれています。
──エンジニアではない人たちが主役になっている点も興味深いですね。
北瀬:NECの場合も、レポート作成の中心にいたのは、実はエンジニアではない方々だったと聞いています。もちろん、事業部門とエンジニアリングチームが密接に連携したからこそ、短期間での構築が実現したわけですが。ただ、エンジニアリングの知識がなくても、AIの力を借りれば「これまでできなかったこと」を実現できる。そんな事例が確実に増えてきているな、と実感しています。
また、個人向けのツールで「AIってこんなことができるんだ」と体感した人たちが、業務の中でもそのアイデアを試せる環境が整ってきた。そこにローコード環境があることで、ビジネス部門の人が自らエージェントを作って動かせるようになっています。
大規模にGemini for Enterpriseを導入した企業とは「一緒に事例を作っていきましょう」という形で伴走しており、「検索をしたい」ではなく「働き方を変えたい」という目的で導入されるケースが主流になってきました。Google Cloudの公開事例は111件を超え、2026年3月にもさらにアップデートが予定されています。
