社内のAI活用で多くの企業がぶつかるのが、セキュリティリスクやガバナンスの壁だ。特に守りの側面が強い金融機関では、新技術の導入に後れを取る場合もある。そんな中、三菱UFJフィナンシャル・グループでAI推進を担う島野浩平氏は「体制でガバナンスとスピードの両方を担保する」と語る。業界の中でもAI活用に積極的な印象だが、何がその背景にあるのか。
トップダウンから現場へ 行員の熱量が上がったきっかけは
金融機関といえば、保守的で堅い組織イメージがつきまとう。しかし、三菱UFJフィナンシャル・グループはそのパブリックイメージとは裏腹に、AI活用に積極的な姿勢を見せてきた。対話型AI「AI-bow(アイボウ)」の独自開発を皮切りに、今ではグループ全体で「AI活用率100%」を目指している。直近では、AIエージェント「AI行員」の導入まで打ち出した。
「今まではトップダウンの色合いが強かったといえます。だからこそ進んできた面もある。それが、2025年は現場の雰囲気が明らかに変わりました。熱量の高まりを感じます」
きっかけは昨年開催された多数の参加型イベントだ。同グループでは、まだ1回もAIを使ったことがない人、ある程度使っている人といった利用傾向に応じて、体験型の研修や経営幹部とAIスタートアップ企業の経営者との対談などを繰り返し実施してきた。また、AIエージェントを開発してアウトプットの精度を競うコンテストも進めている。こうした取り組みが実を結んだ形だ。
島野氏が所属するデジタル戦略統括部では半年に1度、各部署だけでは解決が難しい課題を募集している。専門チームがAIを取り入れられそうな部分を提案し、3ヵ月から半年のスパンで伴走する。2025年下期(10月時点)のエントリー数は108件に達し、上期の約2倍となった。これまでグループ内から上がってくる質問は「そもそもAIを使って良いのか?」といった様子見のトーンのものが多かったが、最近ではAIを使う前提での問い合わせが増えたという。
「地道に行ってきたイベントを通じて、現場がAIとは何かを理解し始めたのでしょう。それぞれが課題解決の実感を持てるようになることが何より重要です」
もちろん、トップダウンでのAI推進は継続していく必要がある。経営層が見ているのはAIが経営指標にどう影響するかだ。「次の目標は業務構造自体の変革」と島野氏。直面している課題はいくつかある。
「今までは業務効率化がメインでしたが、そこから一段レベルを上げなければなりません。業務の仕組み、意思決定のプロセスを再設計する必要があります。現実的に、すべての業務を一気に変えることは難しいです。2026年度はまず土台となる仕組みを作っていく年になります」
具体的なAI導入の長期計画を立てようとしたこともあったが断念したという。島野氏は「あまりにも変化が激しすぎて長期計画は破綻するとわかった」と振り返る。そのため同グループでは、各AIプロジェクトを3ヵ月に1回のペースで見直している。
「開発が進行中のプロジェクトでも、新たに登場したAI機能により不要になると予測されれば、デジタル戦略統括部の判断で中止にすることもあります。アジャイル的に進めるのが近道。現場でプロジェクトに取り組んでいる方々も、最終的にいかに価値を出すかにフォーカスしてくださっています」
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- この記事の著者
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藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)
1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。
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