ベテランSEの思考を再現するマルチレイヤー制御 SEの役割は「FDE」へ
今回、富士通がAI-Driven Software Development Platformを発表した裏には、3つの技術的ブレークスルーがあったとする。
一つは、法令文書を要件定義へと翻訳する技術だ。数百ページ超の難解な文書から変更点を特定し、既存のソースコードや設計書と突合しながら画面設計や判定ロジック、帳票レイアウトといった修正点を整理する。 もう一つは、同社が「Multi-layer Quality Control」と定義する仕組みだ。仕様書に書かれていない現場の暗黙知、そしてベテランSE(システムエンジニア)の思考プロセスを再現するためのもので、以下4つのレイヤーで推論・実行を反復することで実現している。
- 自律設計レイヤー:観察・思考・行動を繰り返し、開発対象を詳細化する
- ガーディアンレイヤー:専門家のように品質を監査し、不備があれば「なぜダメか」を指摘してやり直しを指示する
- 知識レイヤー:業務知識や開発ルール、現場の暗黙知を体系化して蓄積する
- 情報アクセスレイヤー:膨大なコードやドキュメントから、AIの思考に必要な情報を精度を落とさず抽出する
デモンストレーションでは、湿布薬から貼付剤へと変更するという想定で、変更点をAIが理解して自律的に設計を開始。ガーディアンレイヤーが「判定ロジックに曖昧な部分がある」と指摘すると、メタ認知をチェックしてくれるAIエージェントがやり直しを指示し、3回繰り返すことで実装可能なレベルに到達する様子が披露された。
國分氏は「AIは自分で学び、調べ、評価しつづける。ベテランSEの品質に届くまで自律的に試行錯誤する、この仕組みこそが信頼性を担保するための核だ」と語る。
そして、もう一つのブレークスルーは、自律・リレー型のアーキテクチャだ 。独立した複数のAIエージェントが各工程をリレー形式でつなぎ、失敗時の原因調査から再修正までを自動実行する。一方、単にこれらの仕組みを使うだけではうまくいかないことも実証済だ。「コードの修正や結合テストを4時間にまで削減できる裏側には、AIがシステムを正しく理解できるよう、ドキュメントやドメイン知識、設計ルールを整えておく『仕込みの工程』が存在するからだ。この工程こそが、自動化の精度を左右する」と國分氏。システム資産や設計ルールの整理、適切なデータを準備することなどがポイントになるとして、富士通では下図のように「AI-Ready Engineering」と定義している。
今回発表されたAI-Driven Software Development Platformを用いることで、エンジニアを単純な改修作業から解放していく。富士通が抱えるSE部隊は、AIの出力を評価しながらユーザーとの対話を深め、新たな価値を創出することがより求められるようになる。今、注目を集めている「FDE(Forward Deployed Engineer)」のような役割を担っていくことで、富士通は既存資産を活かしながら、AI時代にもトップラインを伸ばすための起爆剤としたい様相だ。
なお、AI-Driven Software Development Platformは、パートナー各社に向けても提供される予定であり、2026年度中にはヘルスケア・行政向けの67パッケージへと適用される。さらに開発者コミュニティを立ち上げ、同プラットフォームを標準としながら担い手を育てていく方針であることにも言及された。
生成AIの普及により、単純なシステム開発の価値は急速に下がり、価格競争や内製化が進む中、大規模システムも例外ではなくなる。これまで大規模案件を担ってきたベンダーには、現場の暗黙知を含めて明文化できないノウハウや知見が蓄積されているはずだ。これをいかにAIへと組み込み、レガシーシステムに苦しむ多くの企業や行政、そしてベンダー自身が抱える悩みの種を取り除けるか。まだ、AI時代は幕を開けたばかりだ。
