学びの“出口”を設定すべし 中国電力流・実践につなげる仕掛け
及川信太郎(AI Shift):今回「リスキリング」をテーマにおいていますが、まずは中国電力でAI人材の育成に取り組むこととなった背景を教えてください。
井上貴大(中国電力):ChatGPTの登場当時、各社で生成AIを導入して活用していこうという機運が非常に高まっていました。当社も例に漏れず、「生成AIは使えないのか」といった声が、現場からも経営層からも同時に上がってきていたのです。
とはいえ、生成AIを実際に導入するにあたっては、どうしても最低限守らなければならないリテラシーの部分があります。従来のシステムとは異なり、入力内容がサービス提供元に二次学習されてしまうなど、特有のリスクが存在するからです。
及川:2024年夏頃から、生成AIの本格的な導入や活用に向けた取り組みを始められました。スタートとして「動画研修」を選択されましたが、視聴後の「テスト」の実施が特徴的でした。
井上:ある種の資格制ですね。テストに合格した人のみがAIを使えるライセンス制にすることで、AIを活用できる人に特別感や先進性を感じてもらい、活用の促進につなげる狙いがありました。
また、生成AIは入力する内容に応じて出力が劇的に変わるため、使い手に応じて活用効果が大きく異なります。全体の活用効果を底上げしていく意味でも、一定のラインを設けることにしました。
及川:動画の配信から1ヵ月ほどは利用者数が急増した一方で、その後は停滞するという新しい壁も生まれました。これに対しては、どのような手を打たれたのですか。
井上:意欲のある方はすぐに試してくれますが、全社的に見るとリテラシーレベルにバラつきはあります。AIがなんなのかすらよくわかっていない層もいる中で、AIがいかに業務を楽にするかをアピールし続けなければなりません。そこで、社内ポータルサイトで具体的な業務に即した便利な使い方をまとめ、全社員に発信し始めました。社内イベントと組み合わせるなど、今でも定期的に情報発信を続けています。こうした火を絶やさない仕掛けは、AI人材を育てる取り組みを始めた段階から必要だと考えていました。
及川:動画研修とセットで2025年末頃に開催した「生成AIアイデアコンテスト」も非常に盛り上がりましたよね。表彰式では若手社員が参加したパネルディスカッションもありましたが、中国電力では珍しい取り組みだったとお聞きしました。
井上:当社のこれまでの教育は、講師から教えを受けてそれをそのまま持ち帰るという一方通行の形式が主流でした。それに対して、現場社員も参加した今回の形式では、「新鮮でよかった」という感想が多く寄せられました。何より身近な人の活用事例を学べたことが、ジブンゴトとして捉える強い刺激になったのだと思います。
コンテストの目的はアイデアの収集だけではありません。動画を視聴して使い方はわかっても、活用機会がなければすぐに忘れ去られてしまいます。研修とあわせてコンテストという出口を作り、「自分の業務のここに応用できるんじゃないか」と考える実践の場を提供することが重要でした。アイデアコンテストの開催とAIツールの導入、そして基礎教育を同時並行で走らせたことが功を奏しました。
