ダッソー・システムズとNVIDIAは2月3日(米国時間)、産業横断的でミッションクリティカルなAIの共有型インダストリアルアーキテクチャ構築に向けた長期的な戦略的パートナーシップを発表した。両社CEOは、バーチャルツインファクトリーとAIファクトリーを融合させることで、製造業から創薬まで幅広い産業のデジタル変革を加速させる方針を示した。
今回の発表は、2月1日~4日に米テキサス州ヒューストンで開催中のダッソー・システムズ主催の年次イベント「3DEXPERIENCE World 2026」の基調講演で行われた。ステージにはダッソー・システムズのパスカル・ダロズCEOとNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが登壇し、対談形式でパートナーシップの詳細と今後のビジョンを語った。
両社の協業の歴史は1990年代後半にさかのぼる。当時はUNIXワークステーションからWindowsベースのワークステーションへの移行期であり、OpenGLをベースにしたCGFX技術の共同開発から始まった。フアン氏は「CATIAが本当にNVIDIAを産業用ワークステーションの世界に導いてくれた」と振り返りつつ、今回のパートナーシップを「四半世紀以上で行った最大のコラボレーション」と表現した。
今回発表されたパートナーシップの核心は、ダッソー・システムズがNVIDIAの主要技術スタックを統合することにある。具体的には、計算処理の高速化を実現するCUDA-Xアクセラレーションライブラリ、物理世界を理解し自律的に行動するフィジカルAIとエージェンティックAI、そしてデジタルツイン構築のための開発プラットフォームであるNVIDIA Omniverseの3領域だ。フアン氏は「これらすべてのライブラリは、四半世紀にわたる私たちの成果を表している。今、これらの技術をダッソー・システムズに融合させ、以前の100倍、1,000倍、そしてまもなく100万倍のスケールで作業できるようになる」と述べた。
こうした統合によってダロズ氏が目指すのは、バーチャルツインを「知識工場」として機能させることだ。同氏は「3Dユニバースはアプリケーションではない。知識が豊かになり、ノウハウがスケールし、その結果が信頼されるファクトリーだ」と説明した上で、これを加速するのが「リアルワールドAI」、すなわち産業・エンジニアリング・科学に根差したAIだと強調した。
この「リアルワールドAI」を理解する上で鍵となるのが、両氏が繰り返し言及した「ワールドモデル」という概念だ。ダロズ氏は大規模言語モデル(LLM)の限界を指摘し、「LLMは衛星を作らない。航空機を設計しない。がん治療法を発見しない。それをするのは皆さんだ。ワールドモデルは実際にバーチャルツインを真にジェネレーティブ(生成的)なものにする」と述べた。
では、ワールドモデルは言語モデルと何が違うのか。フアン氏によれば、言語モデルが構文や語彙、言語構造を理解するのに対し、ワールドモデルは物理法則に従い、因果関係を理解する必要がある。「慣性と摩擦を理解し、重力を理解し、接触を理解しなければならない。AIにその感覚を教えなければならないが、それは必ずしも言語には捉えられない」と同氏は説明する。このワールドモデルを支える技術として、NVIDIAは物理認識AIモデルシミュレーションシステム「Physics Nemo」を提供する。これにより「物理法則に根差しながら、10,000倍速く予測できる」という。
こうした技術の具体的な活用事例として、基調講演では4つのユースケースが紹介された。乳製品大手のベルグループは、より健康的な食品生産と環境負荷低減を目指し、BIOVIAとNVIDIA AIを活用している。従来は1つの製品開発に何百もの物理的テストが必要だったが、現在はバーチャルツインからタンパク質を自動生成できるようになった。電気自動車メーカーのLucid Motorsは、衝突挙動や空力、車両性能のシミュレーションを開発の早期段階に組み込み、形状だけでなく挙動そのものを設計している。
製造現場への適用も進んでいる。フアン氏は工場のバーチャルツイン化の複雑さについて「工場は単一のオブジェクトではない。何百万ものオブジェクトだ」と指摘した上で、「製造ラインを適切に配置し、適切な順序で配置し、適切な間隔を取り、その中にロボットを配置し、ロボットAIを実行して、これらのAIロボットが工場内で動作し、物を操作し、組み立て、移動させ、安全を保つことができるようにしたい。これらすべてがバーチャルツイン内で起こる」と説明した。
この具体例として挙げられたのがオムロンだ。同社は工場の可視化にとどまらず、「ソフトウェア・デファインド・ファクトリー(SDF)」のエンジニアリングにバーチャルツインを活用している。ダロズ氏は「彼らは初日から自律的な部分を設計している。生産システムがすでに稼働してから自律的な部分を注入しようとするのではない。その結果、これらの工場ははるかに柔軟で、レジリエント(回復力があり)で、適応性がある」とその成果を説明した。また、航空産業向け国立研究所のNIAR(National Institute for Aviation Research)は、バーチャルコンパニオンを活用して認証プロセスを変革している。通常3~5年かかり1万以上の要件を満たす必要がある航空機認証において、規制を自動的に取り込み適合性を常時検証する仕組みを構築し、「コンプライアンス・バイ・デザイン」を実現しつつある。
NVIDIA自身がこのパートナーシップの「最初の顧客」となることをフアン氏は表明し、現在進行中のAIファクトリー建設において、ダッソー・システムズのモデルベースドデザインを採用していることを明かした。同氏によれば「1ギガワットのAIファクトリーは約500億ドル。今、世界中で数十ギガワットを建設している。人類史上最大の産業インフラ構築だ」という。着工前にバーチャルツイン内でネットワークやスーパーコンピュータを動作させることで、「500億ドルの部品表をすべてデジタルで持っているので、ミスは起こらない」と自信を示した。
講演後半では、AIがエンジニアの仕事をどう変えるかについても議論が展開された。ダロズ氏がライブデモで示したのは、スケッチから数秒で2Dから3Dへ移行し、パラメトリックモデルを自動生成してシミュレーションまで完了するプロセスだ。「これはエンジニアを置き換えると思うか?」という問いに対し、フアン氏は明確に否定した。「すべてのデザイナーは、コンパニオンのチームを持つことになる。これらのコンパニオンを訓練し、さまざまなスキルを教え、互いに協調し、あなたと協力して働くことを助ける。そして彼らは全員、ダッソー・システムズのツールを使うことになる」と述べ、ツールの使用量は「爆発的に増加する」との見通しを示した。
さらにフアン氏は、このコンパニオンがユーザーの専門知識をコード化し、好みや習慣を学習する点を強調した。「そのコンパニオンはあなたと一緒にいる。クラウドにはいない、パブリックにはならない。なぜならあなたの専門知識を捉えているからだ」と、知識保護の観点からも言及した。
最後にフアン氏は、今後10年間で世界的に約85~100兆ドル規模の産業インフラ構築が予測されることに触れ、「それらすべてを設計し、シミュレーションし、検証し、プロトタイプを作る必要がある。すべてがソフトウェア定義になり、すべてがAI駆動になるので、そのすべてにバーチャルツインが必要だ」と語った。ダロズ氏も「会社の規模に関係なく、どの業界にいるかに関係なく、私たちは意思決定を認証する手助けをする。悪い選択が高価なミスになる前にそれを排除する」とパートナーシップの意義をまとめた。フアン氏は「ダッソー・システムズが40年前に持っていたビジョンが今まさに実現している。このパートナーシップがそれを生き生きとさせている」と応じ、両社の協業による産業AIの未来に自信を示した。
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京部康男(AIdiver編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineとAIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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