効率化の先へ ライオンが目指す「現場主導」のAX
藤井:ライオンでは「生成AIの民主化」を掲げていらっしゃいますが、その背景には何があるのでしょうか。
百合:当社は、中長期経営戦略フレーム「Vision2030」の実現に向けて具体的に13のDX重点テーマを定めています。生成AIの活用はその中核の一つとして、「人的資本経営」のテーマの中で推進をしています。
このテーマでは、「DXの民主化によるオペレーショナル・エクセレンス(競争優位性)」に特に注力しています。これは、生成AIの導入だけに限ったものではありません。さまざまなIT技術を活用することで業務を抜本的に改革し、新たな価値創造に向けた社員の方々の余力を生み出していく。それによって、競争力を強化しようという取り組みです。
これまではIT部門が主導してシステムを整え、業務効率化を支援してきました。しかし、生成AIは専門知識がなくても誰でも使えるほどに間口が広がっています。これからは現場の方々自身がIT技術を自在に操り、自らの業務を自分たちの手で見直していく必要があります。
藤井:生成AI活用は業務効率化の文脈で語られがちですが、さらにその先にある価値創出にフォーカスされているのですね。最近では独自LLMの開発も発表され、注目を集めたのではないでしょうか。
百合:当社では研究開発部門を中心に、数十年にわたって膨大なドキュメントやナレッジを蓄積してきました。それらを活用し、生成AIがしっかりとドキュメントに基づいて回答できるような仕組みを作っています。これにより、研究開発の精度向上や新製品のアイデア出し、設計のサポートなどが可能になると期待しています。
藤井:膨大な独自データを扱うとなると、準備に時間がかかったのではないでしょうか。
百合:そうですね。データベース化された整備済みの情報だけではなく、過去の報告書類やプレゼン資料などが社内の各所に分散して保管されている状態だったため、まずはその収集から始まりました。収集したデータには多くのノイズも含まれています。生成AIが学習しやすい形にデータを変換・クレンジングする作業も膨大で、今後も整備は続けていく必要があります。
当初は活用が二極化も、現在は管理職の関心が上昇 その理由は?
藤井:現場社員の方々は、どのように生成AIを活用しているのですか。
百合:まずは、セキュアな環境で全社的に提供されている「LION AI Chat」という独自の対話型生成AIを活用し、メール作成などをはじめ業務効率化に取り組んでいただいています。どんどん使いこなす社員は、さらに自分の業務に生成AIを組み込むために自ら工夫してプロンプトを作り込んでいます。
一方で、やはりチャットアプリだけだとできることに限界があるのも事実。そう感じる方には、AIエージェントの開発といった“次のステップ”に進めるように社内で案内しています。
藤井:「LION AI Chat」の導入後、スムーズに全社へ浸透したのでしょうか。実際に使う人と使わない人の「二極化」が進んでいたと伺いました。
百合:導入の初期段階では、やはり新しいものへの興味が強くフットワークが軽い若手が先行して活用していました。反対に、使い方がわからず足踏みする層もいるという二極化の状態からのスタートでした。
しかし最近では、定期的に実施している社内向け生成AI説明会への管理職クラスの参加率が高まっています。アンケートを実施したところ、社内動向のキャッチアップのために参加している方が多いようです。「生成AIを自チームや自部署にどう活用すべきか」といった視点で参加している方も増えてきました。
一方で、より業務で活用するためには「携帯電話でも利用できるようにしてほしい」といった要望も一部の社員からあがっています。そのため、実はスマートフォンでも使いやすいようにLION AI Chatも仕組みを改善しているんです。今後はアップデートの社内周知もより重要だと感じています。
