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Microsoft AI Tour Tokyo、各界のリーダーが「AI活用の成功条件」を語る

日本マイクロソフト 津坂美樹氏/東京都 副知事 宮坂学氏/明治安田生命保険 永島英器氏/日本共創プラットフォーム 冨山和彦氏

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(左より)日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長 津坂美樹氏/東京都 副知事 宮坂学氏/明治安田生命保険相互会社 永島英器氏/株式会社日本共創プラットフォーム 代表取締役会長 冨山和彦氏

 基調講演で津坂氏が繰り返し強調したのは、技術よりも組織の発想の転換だ。「技術指導よりもまずマインドセットです。どのように活用できるかではなく、ビジネスの課題解決にどのようにAIを活用するかという視点から始めることが大切です」と語った。

 津坂氏はグローバルの支援実績をもとに、AI活用の成功パターンを四つ挙げた。従業員体験の強化、顧客体験の変革、ビジネスプロセスの再構築、そして自社独自のイノベーション創出だ。コスト削減を主目的にするのではなく、人や顧客、事業の価値そのものをAIによって引き上げることが共通するアプローチだと説いた。

 成功事例に共通する実行面の要素として津坂氏が挙げたのは、全社規模でのAI活用者の拡大、現場に近い人材へのツールの直接提供、そしてAIエージェントの動作状況やROIを可視化・管理する「オブザーバビリティ(可観測性)」の確立だ。「すべてのプレイヤーにおいてAIの動作を把握できることが大事です。どのようなエージェントが動作していて、どのような情報・データにアクセスしているのかを可視化して管理すること」と津坂氏は語った。

 AI基盤の競争優位についても、津坂氏は独自の見解を示した。ベースモデルでも計算基盤でもなく、「各組織が独自に構築するインテリジェンス」こそが競争の源泉になるという考え方だ。話題のモデルが入れ替わっても、自社のデータ基盤とその活用能力が残れば組織の優位性は維持されるとの見立てを示した。

4万人に生成AI環境を整備──東京都が描く「世界最速の行政サービス」

 パネルディスカッションの口火を切ったのは宮坂氏だった。東京都はすでに本庁職員4万人全員が生成AIを使える環境を整備し、日常業務への組み込みを進めている。

 宮坂氏が語ったのは、公務員人口の構造的な減少への危機感だ。「公務員の人口が減ったので行政サービスが少し減ります、とはとても言えません。なので今いろいろな取り組みをしています」と述べ、人手が減っても同等以上のサービス水準を維持するためにAIを積極的に活用する姿勢を示した。

 具体的な取り組みとして紹介されたのが、エージェントを活用した引き継ぎ書の自動生成だ。行政では人事異動のたびに大量の引き継ぎ資料が必要になるが、様々な情報源からエージェントが自動的に資料を生成する仕組みを導入し始めているという。

 宮坂氏が掲げるビジョンは「世界で最もスピーディーに行政サービスを届けられる組織」だ。民間と異なり行政に「競争」という概念を持ち込むことの難しさを認めながらも、給付・企業支援・申請審査など市民に届くまでのスピードをAIで大幅に短縮する方向性を語った。「この1ヵ月だけでも環境が全然変わってきている」とも述べ、変化のペースを現場の実感として伝えた。

金融規制とレガシーシステムの壁を越えて──明治安田生命の文化変革

 金融業界はその特性上、データ管理の厳格さとレガシーシステムの重さという制約を抱える。永島氏は、こうした条件のもとで中継システムのモダナイゼーションを地道に積み上げてきた経緯を説明した。

 「1件1件の保険契約のお客様のデータを適切に管理するということが保険会社の商品価値の一つです」という前提を示しながら、単なるコスト削減に終わらない変革の必要性を強調した。地域に根差した担当者が多い同社では、かつて紙ベースだった業務のデジタル化が進む中で、「どのデータが最も価値があるかを自ら判断する文化」が育ってきているという。

 AI活用については、慎重さを認めながらも競合他社の動向を意識した現実認識を語った。「懸念があるのも事実ですが、競合他社もAIを活用してデータを集めていくわけで、そこで遅れを取ってしまっては経営として太刀打ちできなくなる」と永島氏は率直に述べた。変わる仕事のあり方と変わらない価値の両立を今後の焦点にとらえているとの認識も示している。

人口減少社会の「待ったなし」──製造・中小企業の現場から

 企業再生の現場を長く見てきた冨山氏は、人口減少という構造的な問題を起点に据えた。人口減少は約30年前から続いてきた課題であり、労働力の供給制約はITに限らずあらゆる業種・業態に及ぶと指摘した。

 「はっきり言って日本人労働者の確保が難しくなってきている。少しずつ賃金を上げても、根本的には労働力供給の問題なんですよね」と語った。

 冨山氏が着目するのは大企業よりも中堅中小企業の現場だ。土木管理、道路整備、ゴミ収集、学校管理など、人手不足が顕在化しつつある領域でAIとロボットを組み合わせた自動化が急速に進むとの見方を示した。「現場のビジネスプロセスを全国規模で刷新していくときに、AIをパワフルに活用していくことで生産性向上が実現できる」とも語った。

 雇用への影響については現実的な視点を持ちながら、ホワイトカラーや中間管理職が多い組織形態がこの30年は続くという前提のもと、労働生産性の向上に本腰を入れるべきだと主張した。日本の製造現場については、ロボットとの組み合わせによる自動化において高いポテンシャルがあるとも言及した。

「決める」「実行させる」「組織を巻き込む」──AI時代のリーダーシップ

 パネルの締めくくりに向かって冨山氏が示したのは、AIが普及する時代のリーダー像だ。情報の集計・分析という中間管理職の役割がAIに代替されていく中で、リーダーが本来果たすべき機能が鮮明になるという。「リーダーが本来やるべきこと、つまり『決める』こと、『実行させる』こと、『組織を巻き込む』ことがより重要になってきます」と語った。

 宮坂氏も行政の将来について、「将来的に生産年齢人口が減っても大丈夫な行政サービスを維持できることを期待しています」と述べ、テクノロジーを手段として使い切る姿勢を示した。

 登壇した4氏の立場はそれぞれ異なるが、AIを試験的に使うフェーズから組織の中核に組み込むフェーズへ移行する必要性という点では、発言を通じて認識が重なった。技術の導入そのものよりも、それを受け入れる組織の変革とリーダーシップのあり方が問われているという方向性でも、各氏の発言は一致していた。

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この記事の著者

京部康男(AIdiver編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineとAIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

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