保険業界ゆえのスピードの課題 AIとともに再成長の軌道に乗せる
──マーケティング内製化にAIが重要だったとうかがいました。そもそも、なぜマーケティングを内製化する必要があったのでしょうか。
渡邊(マーケティング部 部長):当社全体では順調に事業が伸びているのですが、個人向け保険商品に目を向けると過去2年の成長が横ばいとなっています。ここをもう1度成長させたい。その実現にはマーケティングが不可欠です。
そもそも、マーケティング施策の実行が遅いことが保険業界の課題としてありました。私は他業界から入社したため、スピードの違いを実感していたんです。他業界なら2週間でできることが、なぜ2ヵ月もかかるのだろうかと。
保険業界特有の制約が多いことが要因でした。たとえば、広告クリエイティブは法務部門とブランド部門の細かいチェックが必ず入ります。広告代理店を挟むと、さらに時間がかかる。しかし、生命保険会社としてお客さまに誤解を与えるような広告表現を使うことはあってはなりません。それを踏まえて、スピードを上げるためには、外部パートナーに依存せず自分たちでマーケティングを行うべきだと思いました。
渡邊:少し前のAIのレベルでは具体的な活用が難しかったと思いますが、進化のスピードは速いです。今では広告代理店ももちろんAIを活用していますし、今後一層活用の幅は広がっていくでしょう。それなら、当社を1番理解している我々が最初から最後まで対応したほうが良いと思ったのです。そこで、AI活用に長けた後藤(優孝氏)、橋詰(青弥氏)に相談したのが始まりでした。
──具体的には、どのような場面でAIが活用されているのですか。
後藤(マーケティング部 戦略補佐):たとえば、広告クリエイティブのたたきを作成する際にGeminiなどを活用しています。従来は、構成案を作り、外部パートナーに依頼し、初稿が出来上がるまでに数日かかっていました。今ではこのフローが数時間~半日に短縮されています。
その結果、毎月回すPDCAの数が以前の3~5倍に増加しました。ウェブ広告では「勝ちクリエイティブ」をいかに早く見つけるかが勝負。試せる数が増えたことで、CPA(顧客獲得単価)の改善スピードが明らかに上がりました。
マーケターとデザイナー間の意思疎通がスムーズになったのもメリットです。元々はマーケターが言葉で「もっとシュッとした感じで」「安心感のある雰囲気で」などと伝えていましたが、なかなか伝わらずデザイナーから上がってくるアウトプットのイメージが異なるケースも少なくありませんでした。それが、今はマーケター自身がGeminiなどでイメージ画像を生成してクリエイティブチームに共有できます。自分のイメージを具体化できるようになったことで、マーケティングチーム全体の士気も高まったと感じています。
──定量・定性の両側面で大きな成果が得られているのですね。
後藤:もう一つ、定量的に大きかったのはコストメリットです。これまで外部パートナーに支払っていた広告運用費の手数料を削減できました。当社の事業規模から考えると、年間で大きなインパクトがあります。
通常、こうして生まれた余剰はハイスキルな広告運用担当者の採用や人件費で相殺されがちです。しかし、我々はAIを「優秀なアシスタントでありエンジニア」だと捉えています。つまり、人を増やすのではなく既存メンバーを中心に回せる体制に移行することにしました。採用コスト、運用コストの両面でROIが高い体制なのです。
橋詰(データサイエンス推進室):開発側から見ていると、マーケターが技術の壁を突破できたのも革命的でした。高度な広告運用にはSQLを使ったデータベースへのアクセスやタグマネージャーの複雑な設定など、テクニカルな知識が必須です。それが誰でもAIでコードが書けるようになったため、マーケターだけで対応できるようになりました。開発側の視点では、生成されたコードを見ればマーケターの意図が把握できるため助かっています。
