AI時代、広告運用はクリエイティブ主導になる
――前回は、ONE-AIGENTの全体像についてうかがいました。デジタル広告の実行機能を担う御社として、「運用型広告のオペレーションやクリエイティブ生成に関する現時点での答え」だとおっしゃっていましたね。
柴山:はい。初手として、1.AIエージェント型広告運用、2.生成AIを駆使したクリエイティブ制作、3.クライアント企業のAIエージェント構築支援、の3つのサービスを発表しました。
――今回は、実際にどういったことを任せられるのか、詳細にお聞きしていきます。前提として、AI時代におけるクリエイティブの課題感について、お考えをうかがえますか?
柴山:まず、「クリエイティブ主導になる」という大きな変化があります。従来は「ターゲットの明確化→適したクリエイティブの制作」という順番でした。しかし今はプラットフォーム側の進化により、「クリエイティブを当ててみる→ターゲットが明確化する→アルゴリズムで最適化する」と、進め方が逆転しつつあります。「Creative is Targeting」と各所で言われ始めています。
ですが、広告成果ばかりを追ってアルゴリズム任せにしていると均質化し、成果も縮小していきます。そこで、人間が今まで以上に新たなターゲットや訴求の可能性を、クリエイティブに意志を込めて広げていくことが重要になると思います。
野口:最初の軸をどう発見するかが、一層、プランナーに求められますね。その点と、AIによる量産化をうまく掛け合わせることがポイントだと改めて思いました。
柴山:そうですね。以前はクリエイティブの量をつくるのに手がかかっていましたが、そこをカットして、より人間ならではの頭の使い方を掘り下げるべきだと。単に効率化して人手も圧縮するのは、危険な話だと考えています。
プランナーに求められる能力はどう変わるか
野口:クリエイティブをAIが量産するようになると、従来のクリエイティブディレクターは、AIにディレクションする「クリエイティブAIのディレクター」のような役割を担う必要がありますね。
インプット自体、マルチモーダルでできるようになっているので、言葉や画像などで的確に指示にするディレクション能力が試されそうです。ただ、まだ方法論は確立されていないかと思うので、そこをフレーム化できれば、単なる量産型ではないクリエイティブが生まれそうです。
また、獲得系の広告が先行していると思いますが、ブランディング広告における「AI×クリエイティブ」がどう効いてくるかも、これから注目されそうですね。
柴山:おっしゃる通りですね。むしろ、ニーズがあいまいだとAIが選択肢を提案しますから、生活者の側から「このブランドがほしい」と純粋想起してくれることがますます重要になりそうです。
ただ、獲得系に比べると、長期的な視点でブランドを届けることに関して、やはりAIは苦手です。人間のナラティブや文化的背景の把握、あるいは世情の反映、過去のブランド施策との一貫性など……そうした部分こそ、長くブランドのパートナーとして知見を積み重ねてきた我々広告会社が提供できる価値のひとつだと考えています。
その企業らしい表現をいかにAIで量産できるか
野口:なるほど。AIで量産すると、ブランドを損なわないようなガバナンスが重要になってきますが、その部分には広告会社の力が必要ですね。
柴山:はい。同時に、ブランドはただ守るだけではだめで、守りながら時代に合わせて常に革新していく必要もありますよね。そうした部分は、やはり人間に考えてほしい領域です。
また、らしさの反映は獲得系の広告でも同じで、バナーひとつとっても、ブランドカラーを踏襲するだけに留まらない“その企業らしい表現”は必ずあります。その企業らしい表現をいかにAIで量産できるか、という掛け算こそ、我々が大事にしていることであり、強みを発揮できる部分です。
背景には、これまで様々なクライアント企業の広告を手掛けてきた経験があります。いわゆる“勝ち筋”のクリエイティブや、企業やブランドらしさに関する分析には自負があります。過去の勝ち筋の特徴を保ちながら、らしさを重ねて提案していくことが、今のところのAI量産のひとつの答えになっています。
野口:単なる量産では、冒頭でおっしゃったように均質化し、成果も狭まりますから。
柴山:はい。AIで効率的に業務を進められても、クリエイティブが同質化してしまったら、他社との差が生まれません。マーケティングにおいて、同質化はつまり“負け”ですよね。なので、結局AI時代においても「自分たちはどのベクトルを向いているのか」を見定めて再現していくことが不可欠だと思います。
「CREATIVE BLOOM」の2つの機能:プラニングとクリエイティブ
――では、ONE-AIGENTのベースにもなっている、デジタルマーケティング戦略立案プラットフォーム「CREATIVE BLOOM」について教えてください。これ自体は、博報堂DYグループ内で使われているツールという理解でよいでしょうか?
柴山:はい、このプラットフォームをクライアント企業に提供しているわけではありません。もともとはディレクターや営業、デザイナー間の進行管理システムで、数年分の全クライアントの全広告を蓄積してきました。配信のデータもすべて紐づいています。そこにネクストステップとしてAIを掛け算し、新たな価値を生み出すプラットフォームとして進化させたという経緯です。
――具体的に、どういった機能があるのですか?
柴山:大きく「CREATIVE BLOOM PLANNING」と、「CREATIVE BLOOM DISPLAY Ads/TEXT Ads」に分けられます。
柴山:PLANNINGでしっかり整理することで、例えばDISPLAY Adsのほうではこのようなクリエイティブを自動で量産することができます。
野口:これが自動で! すごいとしか言葉が出てこないですね……。
柴山:クリエイティブについても後日公開の記事で詳しくご紹介しますが、PLANNINGの機能から説明すると、生成AIを使ってクライアントや商材、そして生活者を高度に理解し、最適な戦略を立案します。
ここで目指しているのは、「全員プランナー化」です。プランナー以外の社員でも、AIと並走しながら、市場環境や競合分析、顧客情報の把握といった与件整理を実行し、最適な案を導くことができます。
AIとの協業は、次の図のようなイメージです。最新かつ大量のデータを分析できるAIと壁打ちしながら、人間の思考の幅を広げ、適切に取捨選択やブラッシュアップ、監修をフィードバックすることで、戦略の精度をより高めていきます。AIに全自動で任せることも可能です。
7つのステップでAIがプラニングに並走
柴山:PLANNINGの全体像は、次の図のようになっています。市場分析や自社分析、あるいはインサイト発掘などは、それぞれ細分化した専門AIエージェントが機能しています。
野口:このように段階的になっていると、経験のあるプランナーでも学びが大きそうですね。
柴山:はい、そう考えています。まさに、AIをパートナーとして人間の側の進化も見込んでいます。
具体的には、7つのステップがあります。まず「基本情報の把握」として、さまざまなインプット情報とインターネット上の情報を合わせて、サマリを作成します。SWOT分析やPEST分析、5Forces分析などのマーケティング・フレームワークも自動生成します。
柴山:次に競合分析ですが、同カテゴリの競合だけでなく、異なるカテゴリでも同じ顧客ニーズを満たすジョブ競合もリストアップします。その上で、適切にX軸・Y軸を設定したポジショニングマップを描画する機能もあります。視覚的に分かるので、クライアントとの会話に用いているという声もありますね。
野口:ポジショニングマップまで出してくれるんですか。そもそも軸の設定が難しかったりしますから、これは有用ですね。
柴山:そうですね。X軸Y軸をどうするか、それを考察することって意外と頭を悩ませる部分ですからね。そして、ここまでの情報をもとに仮説を生成し、その検証方法にも示唆を提示します。ここまでが、大きく戦略パートになります。
博報堂DYグループの強みである生活者データが力を発揮
柴山:戦術パートとしては、ターゲット選定とペルソナ生成の段階があります。インサイトを踏まえて、ターゲットとなる顧客セグメントを一覧化して提案します。
野口:顧客分析には、博報堂DYグループ全体で長く蓄積されている生活者データも反映されているのですよね?
柴山:もちろんです。与件ごとのインプットと、博報堂の生活定点データや生活者DATA PLATFORMとの整合性も十分に分析しながらターゲットを提案し、それぞれのクラスターに属する具体的なペルソナも複数パターンを生成します。そして、そのペルソナに対してデプスインタビューもできます。忖度して答えることもないので、プランナーが知りたいことを存分に深掘りできるのが特徴ですね。
柴山:最後に、実際の訴求開発と、コピー生成も行います。プラニングから、どのようにクリエイティブに落とし込むかの方針づくりですね。
野口:想像をはるかに超える技術力と作り込みですね。高度な機能に加えて、過去からの勝ち筋クリエイティブのデータ、企業“らしさ”の担保、そして博報堂の生活者データとも連携できる部分などは唯一無二だと感じました。
ちなみに、初期仮説からセグメントを選定してペルソナをつくるにあたって、絞り込みすぎてしまうことはないのですか?
柴山:たしかに「仮説→ターゲティング→ペルソナ」の過程は、AIによってこれまでよりぐっと絞り込まれていきます。ただ、どのセグメントを選択するか、ほかのセグメントはないのかを模索したり、あるいはペルソナも2人目、3人目と増やしたりすることも可能です。また、競合とのポジショニングマップからも、どこにマーケットの白地があるのかといったことを考えやすくなるので、絞り込みと思考の拡張を並行して進められます。
――ここまでできるとは、驚きの連続でした。AIとの忖度なき対話を通して、プラニングを練り上げていく未来を感じましたし、それを現実に実行できる作り込まれた基盤があることも印象的でした。次回は、PLANNINGに連携するDISPLAY Adsで、どのようにクリエイティブが量産され運用まで行うかを詳しくうかがいます!
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