デバイスは「持ち運ぶもの」から「身につけるもの」へ

インターネットの構造が変われば、私たちが使うデバイスも変わる。キャス氏が予測するのは、「自然言語オペレーティングシステム」の時代だ。
これまでのデバイスは「持ち運ぶもの」だった。スマートフォン、タブレット、ノートPC。しかしキャス氏が描く未来は、デバイスは「身につけるもの」になる。財布、リング、時計といった形態だ。
なぜか。ディスプレイの重要性が大きく下がるからだ。
「仕事が自然言語、音声、テレメトリー、オーディオビデオに移行すると、スクリーンを見つめる必要がなくなるのです」(キャス氏)
一部の人には使いこなせるが、多くの人には使えない複雑な機械。企業はそういうものを作り続けてきた。しかし、機械が人間と自然に会話できるようになれば、状況は一変する。
「デジタルディバイドは、まもなく終わる」(キャス氏)
スマートフォンの操作に苦労する必要はなくなる。ただ話しかければいい。今後AIがより身体に近づき、理解し、応答し、実行することで、デバイスの弱者はいなくなるという。
今日は生まれるのに最高の日
シリコンバレーに「アバンダンス(豊穣・潤沢)」な未来を信じる楽観主義者が多いと言われる。OpenAIのサム・アルトマンはその中心人物だが、キャス氏もまたその1人だ。最後に、キャス氏は「今日は生まれるのに最高の日です」と語った。
キャス氏が楽観的な理由は2つある。1つ目は、デフレだ。
「住宅、医療、教育が高いのは、技術の問題ではなく政策の問題です。AIが他のすべてを安くしたとき、なぜこの3つだけが高いのかが明らかになります。そのとき、私たちは本当の議論を始めることができるでしょう」(キャス氏)
AIが生産性を劇的に向上させれば、多くのものが安くなる。しかし住宅、医療、教育だけが高止まりしたままなら、それは技術の限界ではなく、政策の失敗だということが誰の目にも明らかになる。
2つ目は、科学的ブレイクスルーだ。
「『制限のない知能』は素晴らしい。でも『制限のないエネルギー』はもっとすごい。プロトン電池、大規模太陽光発電、核融合。そこまで遠くありません。多くの人がそれを見届けることになります」(キャス氏)
AIが科学研究を加速させれば、エネルギー革命も現実のものになる。それは気候変動、貧困、資源の制約といった人類の根本的な課題を解決する可能性を秘めている。
「私たちは今、歴史の転換点に立っています。そしてそれは、恐れるべきものではなく、期待すべきものなのです」(キャス氏)
