SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

AIdiver Press

自動運転からヒューマノイドへ、「フィジカルAI」のセキュリティリスクが拡大する理由──VicOne CEOに聞く

VicOne CEOMax Cheng(マックス・チェン)氏 インタビュー

  • Facebook
  • X
  • note

規制動向が示すロボティクスセキュリティの重要性

 世界的な規制動向も、フィジカルAIのリスクに対応し始めている。産業機器向けのサイバーセキュリティ標準であるIEC 62443に加え、2024年に施行された欧州サイバーレジリエンス法(CRA)は、製品のライフサイクル全体にわたるセキュリティ要件を定めている。個人情報保護の観点からはGDPRが、アメリカの医療情報保護法であるHIPAAが、そしてAI技術の安全性と透明性を規定するEU AI法(AI Act)が、それぞれロボティクスセキュリティの重要性を後押ししている。

 「これらの規制は、ロボット内部に保存される患者の医療記録や人々の顔画像といった極めてセンシティブなデータをいかに保護するかという課題に焦点を当てています」とチェン氏は指摘する。

 ただし、規制の整備は技術の進化に追いついていないのが現状だ。フィジカルAI特有のリスク、特にAIの判断を操作する敵対的攻撃への対処については、まだ具体的な基準が確立されていない。業界横断的な標準化の議論が必要とされている。

業界の対応と多層防御アプローチ

 こうした多岐にわたる脅威に対し、業界各社はどのような対策を講じているのか。VicOneは、自動車サイバーセキュリティで培った知見を活かし、ロボットのライフサイクル全体をカバーする防御アプローチの開発を進めている。

 チェン氏が説明するVicOneの戦略は、多層構造になっている。メーカー向けには、出荷前の脆弱性対策として「レッドチーミング」という手法を用いたスキャンプラットフォームを開発している。「出荷前にロボットの脆弱性をスキャンし、AIモデルが攻撃者によって操作されないかをテストするワンストップのプラットフォームです」とチェン氏は説明する。このプラットフォームでは、マルチモーダルAIの各層、すなわちテキスト、画像、音声、行動モデルに対して攻撃シナリオを再現し、脆弱性を事前に発見する仕組みだ。

 オペレーター(利用者)向けには、リアルタイム監視のセキュリティエージェントを提供する。「PCのアンチウイルスソフトのように機能するエージェントを稼働時に導入します」とチェン氏は語る。このエージェントは、AIに送られる画像データなどの整合性を常にチェックし、改ざんや不審なデータが送られようとした場合には即座に検知してブロックする仕組みだという。

 さらに、「R-SOC(ロボット・セキュリティオペレーションセンター)」という中央プラットフォームで統合監視を行う。「ここでは専門家がリアルタイムで異常を監視し、サイバー攻撃への検知と迅速な対応(Detection and Response)を実現します」とチェン氏は説明する。複数のロボットから収集されるセキュリティデータを統合分析し、新たな脅威パターンを早期に発見する狙いだ。

図 資料提供 VicOne [画像クリックで拡大]

次のページ
残された課題:技術だけでは解決できない複雑性

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
AIdiver Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

京部康男(AIdiver編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineとAIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X
  • note
AIdiver(エーアイダイバー)
https://aidiver.jp/article/detail/296 2025/12/22 08:00

広告を読み込めませんでした

広告を読み込み中...

アクセスランキング

アクセスランキング

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング