人間証明をする「World ID」とは マイナンバーカードでは不十分な理由
OpenAIのサム・アルトマン氏らが2019年に立ち上げた「Worldプロジェクト」。主に、アクセス主体がAIではないことを証明する「人間証明(Proof of Humanity)」のインフラ整備に取り組んでいる。それを推進するTools for Humanityが展開しているのが「World ID」だ。プライバシーを保ちながら、インターネット上で「自分が人間であること」を証明できる仕組みだという。Tools for Humanityの日本代表である牧野友衛氏は、World IDの必要性をこう話した。
「AIがさらに普及していくと、インターネット上に偽のアカウントや偽の情報が溢れるようになる。現在、オンラインサービスへのアカウント登録にはメールアドレスや電話番号が使われているが、どちらも複数取得が可能なため、一人が大量のアカウントを操作できてしまう。かといって、パスポートやマイナンバーカードなどの政府発行IDを全サービスで使うことは、不必要な個人情報の開示リスクを伴う。また、世界には政府IDの普及率が低い国や、戸籍を持たない人々も存在しており、政府IDを前提にしたグローバル対応は難しい」(牧野氏)
World IDの取得には、Worldが開発したデバイス「Orb(オーブ)」を使用する。高精度なカメラを搭載しているバレーボールほどの大きさの球体型デバイスだ。ユーザーはスマートフォンに「World App」をインストールしたうえで、Orbの設置場所に一度だけ出向き、顔と目の撮影を行う。この1回の認証で手続きは完了し、以降はアプリを通じてWorld IDを利用できる。国内にはすでに約220ヵ所の設置拠点があり、認証は数十秒、全体の流れでも数分以内に完了するという。
同社が認証プロセスで特に重視しているのが、プライバシーの保護だ。撮影された目の画像からは復元不可能なコードが生成され、元の画像データはOrb内から削除される仕組みとなっている。コードはユーザー自身のスマートフォン内に保存されるだけで、Worldのサーバーには送信されない。その後、スマートフォン内のコードの断片がバックエンド基盤「AMPC(Anonymized Multi-party Computing/匿名化マルチパーティ計算)」ノードに送られ、「人間であること」と「同じIDがまだ登録されていないこと」の2点を、データそのものを開示せずに暗号計算によって確認する。
AMPCノード
人間証明の計算処理を担う分散型バックエンド基盤のノード(拠点)。
今回の説明会では、新たに発表された「World ID 4.0」の詳細が語られた。「人間認証」に加えて「本人確認書類認証」「顔認証」といった機能を備えている。
- 本人確認書類認証:NFC対応の政府発行ID(パスポートやマイナンバーカード)に基づいて、年齢や国籍をゼロ知識で証明できる。たとえば、「18歳以上ですか」といったサイト側からの確認に対して、生年月日の情報を共有するのではなく「はい/いいえ」のみを回答する
- 顔認証:Orbで撮影した顔画像をアプリ内に保持しておき、その画像と現在のカメラ映像を照合することで本人を確認する
World ID 4.0は、マッチングアプリ「Tinder」との連携がすでに日本で先行スタートしている。プロフィールに人型の「Human Badge」を表示することで、プロフィールの裏にいるのが実在の人間であることを証明するとともに、一人に1アカウントしか紐づけられないため、問題を起こしてアカウントを削除された場合に同じバッジを再取得できないという抑止効果も持つ。
ビジネス用途では、「Zoom」との連携も進められている。Orbで撮影した顔画像、PCカメラの映像、相手の画面に映る映像の3点をリアルタイムで照合し、ビデオ会議中のディープフェイクを検知する。
このようなWorld ID 4.0とともに、説明会では東京大学のAMPCノードパートナー参画が紹介された。具体的には、World IDの認証処理の一端を担うサーバーを管理・運用する拠点の一つとなる。これにともなって、会場には同学の松尾豊教授が登壇しトークセッションが行われた。次ページでその様子をお届けする。
