生成AIの影で進化する「旧来型AI」の真価
――昨今のAIブームにより、広告運用の現場も大きな変化を遂げていると思います。柴山さんは現在のシフトをどう捉えていますか?
柴山:現在は生成AIが主役として注目されていますが、その裏側で進化し続けている予測などの旧来型AI、つまり数理最適化やアルゴリズムの進化を無視することはできません。特に運用型広告においては、この配信アルゴリズムの深化こそが礎となっています。
たとえば、静止画クリエイティブにおける「Creative is Targeting」という考え方について、以前少し触れました(※第2回)。これはターゲティングの意思をクリエイティブに込め、それをプラットフォーム側のアルゴリズムが学習して最適な層へ配信するというものです。SNSのリール動画などが典型ですが、ユーザーが「何秒見たか」「スワイプしたか」といった膨大なエンゲージメントデータが蓄積されることで、分析精度が飛躍的に高まっています。
――メディア側のデータの質と量が変わったことで、アルゴリズムの自動化も加速しているのですね。
柴山:その通りです。我々が痛感しているのは、生成AI以外の部分での自動化、つまり「配信の最適化」もこの数年でかなり強化されていることです。標準的なオペレーションにおいては、人間が勝つ余地はもう限りなく小さくなってきています。ここに人間が必要以上に汗をかくのではなく、戦略立案やブランド形成といったより高度な領域へ、リソースを移していくべきでしょう。
「Advertising Flow」が実現するプラットフォーム横断の予算最適化
――では、具体的なツールについてうかがいます。まず、運用の自動化を支援する「Advertising Flow(アドバタイジングフロー)」は、どういった点に優位性がありますか?
柴山:GoogleやMetaといった各プラットフォーマーは、自社環境内での入札最適化には非常に長けています。しかし実際の広告主は、Google、Yahoo! Japan、Microsoftなど複数の媒体を、目的に応じて使い分けています。この「プラットフォームをまたいだ予算配分」の最適化は、各プラットフォームの機能だけでは完結しません。
「Advertising Flow」は、まさにこのプラットフォーム間、あるいはキャンペーン間の最適化を担う自社開発ツールです。たとえば「指名検索の獲得」といった同一の目的で複数の媒体を運用している際、どこにどれだけの入札を強化すべきかを横断的に計算し、自動で各媒体のパラメーターに反映させます。
――通常、人間が朝一番に各媒体からCSVをダウンロードし、Excelで集計して調整している作業ですね。
柴山:はい。その作業を、圧倒的なスピードで、しかも24時間365日休まず実行するので、タイミングを逃しません。
「Advertising Flow」は5年以上にわたり、当社のデータサイエンティストが現場の声も参考にアルゴリズムを改善し続けています。新しい媒体メニューや特殊な入札調整シーンにも対応できるよう、アップデートを重ねているプロダクトです。
――現場の声も、大小さまざまかと思いますが、どう選択しているのですか?
柴山:その点は、システム開発側のプロダクトマネージャーが管理しています。具体的には、誰でも要望を書き込める「目安箱」という仕組みで、その要望に賛同した人の人数も踏まえて着手するかを決定します。着手中なら進捗はどうか、などをすべて可視化しています。
マーケターの意思を反映するコストコントロール
――自動化ツールは「効率」を追求するあまり、現場の細かいニーズを反映しにくいイメージもあります。そのあたりはいかがでしょうか。
柴山:そこが我々の最もこだわっている部分です。単純にベストな成果を追うだけのツールでは、実際のマーケティング現場では機能しません。たとえばBtoB商材の場合、土日の配信を抑制したい、あるいは国民の祝日は停止したいといった細かな運用ニーズがあります。これらは、我々のメンバーがしっかりクライアント企業に相対して、キャッチしてくるものです。こうした人間が拾い上げてくることを、機能として実装しています。
――月末予算の使い切りや季節要因など、広告主ごとに個別の事情もあると思いますが、それらへの対応も可能なのですか?
柴山:はい、個別事情も非常に重要視しています。月末に契約が集中する商材であれば、あえて月末に予算を寄せるという「意思」を、ウェイト設定によってツールに反映できます。仮に1ヵ月の予算が100万円なら、AIがその制約の中で、人間の戦略的な意図を汲み取りつつ、最終的に99.9%の精度で予算を最大限活用しながら最大成果を目指します。
――AIが足りない部分を人が補い、人の意思をAIが最適化する。まさにハイブリッドな運用が実現しているのですね。
柴山:そうです。標準的なオペレーションはAIに任せる一方、依然として人間の介在価値が残る、企業の「戦略」をどう露出に反映させるかという部分に集中できる体制になっています。
広告主企業とのコミュニケーションを革新する「iPalette」
――では、分析・レポーティングツールの「iPalette(アイパレット)」についても伺います。他社ツールとの違いは何でしょうか?
柴山:「iPalette」は単なるレポーティングツールではなく、広告主企業と我々をつなぐ「コミュニケーションプラットフォーム」で、こちらは3年近く運用しています。「Advertising Flow」における配信の最適化は数理最適化AIが担い、その結果の解釈や対話は「iPalette」の生成AIが担います。
従来の広告運用では、データをExcelやPowerPointにまとめ直して報告する工程が発生し、そこに大きなタイムラグとリソースが生じていました。その点、「iPalette」はWebダッシュボード形式で、常に最新の情報を提供します。これにより、広告主企業はWeb上で「自分の欲しいタイミングで最新の成果を見る」ことが可能になります。しかし、本当の価値はその先にあります。
――レポーティングの先、というと?
柴山:分析のAI自動化です。たとえば、先月比でインプレッションが増えた際、それが単なる予算増によるものか、あるいはCPCの変動によるものかといった因果関係を、AIがボタンひとつで読み解き、初期レポートを生成します。
もちろん、その初期レポートをそのままクライアント企業に提出することはほとんどありませんが、当社の広告コンサルタントが「どこに着目すべきか」を探す時間を大幅に短縮できます。レポートを読み解き、次の打ち手を考えるための議論に、より多くの時間を割いていく。それが、このツールの本質的な役割です。実際、使っていただいている企業からは、定例会などの質が上がったといった声が聞かれています。
AIエージェントが加速させる、次世代のクリエイティブレビュー
――「iPalette」には、対話型の分析機能も搭載されていると聞きました。
柴山:はい。現在は専用のリーズニングモデル(推論モデル)を組み込んでおり、エージェント形式で複数のAIを走らせることで、より深い洞察が可能になっています。たとえば「コンバージョンレートが改善した要因を深掘りして」と投げかけると、「CPCは高騰したが、配信面が絞り込まれたことで送客の質が高まったため」といった多角的な回答を返します。
――クリエイティブも管理できるのですか?
柴山:はい、クリエイティブのチェックバック(修正依頼)機能も統合しています。これまでメールやファイルベースで行っていたやり取りを、すべてプラットフォーム上で行い、その履歴をデータ化しています。クリエイティブの修正指示と提案は、たいてい一往復では終わらないので、対話を時系列で一覧できるのも効率的です。
特筆すべきは、まだβ版で試験運用中の機能にはなりますが、AIによるチェックバックサジェスト機能です。過去のレビュー履歴、たとえば「この商品は、ブランドロゴのサイズを厳密にすべき」といった傾向を学習し、クライアント企業のレビュー時にAIが「ロゴのサイズが適切かチェックをしてください」とリコメンドを出します。これにより、クライアント企業の確認工数と我々の修正工数の両方を削減しています。
事業パートナーとしての広告会社の新たな姿
――AI時代のプロダクト開発や運用についてお聞きすると、やはり「データの蓄積」が大きなカギの一つになっていると実感します。それによって、中長期的にも価値を生み出せる。そうした思想のもと、「Advertising Flow」や「iPalette」、さらに連載第2・3回で取り上げた「CREATIVE BLOOM」などが構築されているのですね。
柴山:おっしゃる通りです。ご紹介した以外にも、大小さまざまなツールを、中長期的な観点を重視して開発・運用しています。
――こうした様々な自社ツールを組み合わせて、御社の提供価値はどう変化していますか?
柴山:我々が目指しているのは、エージェンティックな広告会社へのモデルチェンジです。AIエージェント基盤を自社でスクラッチ開発しているのは、サードパーティのツールでは不可能なデータの再利用と、目的を持った蓄積を可能にし、その蓄積を再びAIへフィードバックするというData Flywheelベースでの進化が今後の事業運営を左右すると考えているからです。
また、自動化によってコスト効率が上がることは、単なる我々の利益のためだけではありません。自動化によって浮いた人間のリソースを、AIがまだ苦手としているブランド形成やマーケティングKPIの設計など、より高度な戦略立案に充てることで、クライアント企業の事業成長貢献への投資としても活用していきます。
――クライアント企業にとって、テクニカルなオペレーターから「事業パートナー」への進化を志向されているのですね。
柴山:はい。コミュニケーションの円滑化も含めて、多種多様なAIエージェントを使いこなし、広告主の事業成果を最大化する。ツール単品の導入ではなく、一気通貫のAIエージェント基盤の提供こそが、我々のマーケティング支援サービス「ONE-AIGENT(ワン・エージェント)」であり、これからの事業パートナーとしての正解だと考えています。
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