OpenAI優勢から一転、Googleの逆襲。刻一刻と状況が変化
押久保:『AIdiver』編集長の押久保です。本連載ではここまで、Hakuhodo DY ONEのマーケティング支援サービス「ONE-AIGENT」について、常務執行役員の柴山さんにうかがってきました。今回は初のゲストとしてアタラのファウンダーで、プラットフォームビジネスアナリストでもある杉原さんを迎え、「AIエージェントが広がる時代の検索の意義」について議論していければと思います。
杉原さんは、Googleやオーバーチュア(現Yahoo!検索広告)の日本法人で広告ビジネスに携わった、日本の運用型広告のパイオニアと言える存在です。今回は、AIエージェント時代に購買行動がどう変わるのか、をテーマに掲げました。加速的に変化している現状ですが、まずは杉原さん、ここまでの「検索」を取り巻く変化についてうかがえますか?
杉原:本当に激動の時代と言えますよね。大きなきっかけは、2022年11月にOpenAIが「ChatGPT」を一般公開したことだと捉えています。ユーザーにとって、従来の「検索してリンク先を読む」ことから、「その場で答えを得られる」ことが当たり前になりました。これは検索体験そのものを変える出来事で、Googleにとっては検索事業の根幹を揺さぶる衝撃があったと思います。
アタラ株式会社 ファウンダー 杉原 剛氏
KDDI株式会社、インテル株式会社を経て、オーバーチュア株式会社(現Yahoo!検索広告)、Google日本法人で広告営業戦略を担当。企業の成長を後押ししながら、マーケティングの力で人々の暮らしや社会全体をよい方向へ導くコンサルティング会社を目指し、2009年にアタラを創業。最新のグローバル情報発信や人材育成にも力を入れながら、マーケティングの可能性を広げ、よりよい社会の実現に貢献していきたいと考えている。
Googleも状況を看過していたわけではなく、即座に「Bard」というチャットAIを公開したものの、当時は粗さが目立ち、多少の批判もあったのを覚えています。Googleにとって検索は基幹ビジネスであり、広告事業への影響も非常に大きいので、慎重に考えすぎた結果、スピードと完成度の点でChatGPTに少し後れを取ってしまったのでしょう。とはいえ同社は20年近くAIを研究してきた蓄積があります。最先端の技術を武器に、2023年末から2024年にかけて大きく戦略を変え、Bardを現在の「Gemini」に統合したのです。
Geminiは皆さんご存じのように、Google WorkspaceやAndroidも含めて、Google全体をAI化する基盤として機能しています。「AI Overviews」といって、今Googleで検索すると、最上部にAIの回答が表示されますよね?
押久保:はい、そうですね。
杉原:これは重要なポイントです。Googleは単体のプロダクトで勝負するのではなく、AIを検索体験の中に静かに埋め込む戦略を選んだ。少なくとも私は、そんな印象を受けました。結果、ユーザーの検索体験を壊さずにAIを実装し、同時に広告の収益化にも道筋をつけたのです。
ユーザー体験と収益性の両立は、Googleの最も得意とするところで、それを今回もしっかり実現した形ではないでしょうか。こうして基幹ビジネスを守ったことで、GoogleではAIへの投資を強化できる環境が整いました。
こうした動きの一方で、ChatGPTは守勢に回っている印象です。コスト増と、有料ユーザーが4-5%に留まることで、収益を圧迫しています。現状、世界で7-8億人が利用し、1日で20億回以上の質問がされているので(※1)、検索インテントは非常に高いと言えます。
業界では今年にもChatGPT内の広告が始まるのではないかと聞きますし(※2)、私自身も広告プラットフォームとしての期待値は高いと思っていますが、現時点では収益モデルの確立が課題でしょう。既存ビジネスを守りきったGoogleと、収益化が問われるChatGPT、2つの構造が明確になっているのが現状だと思います。
国内でのAI検索と、検索自体のシェア。Google検索は減っていない現実
押久保:Googleは、収益を維持しながら、新たなフロンティアへのアクセルも踏んでいると。
杉原:そうですね。基幹ビジネスにメスを入れるのは、どんな業界や事業でも怖いはずです。それをこの短期間で実行し、成果に漕ぎ着けている点には、注目せざるを得ないと思います。
押久保:では柴山さんに、国内の状況をうかがいます。今のお話を受けて、御社が発表された『AI検索白書』におけるAI検索のシェアなどを踏まえて、どのような所感をお持ちですか?
柴山:杉原さんのお話は、とても腑に落ちまして、AIと言えばChatGPTというところから潮目が変わってきているのがまさに今なのだなと実感しました。当社のデータによると、ChatGPTが先行したという点で、しばらく80%近いシェアを誇っていました。ですが図のように、2025年12月を境に10%ほど下落し、その分Geminiが急上昇しています。
押久保:形勢が如実に表れていますね。
柴山:はい。AI検索ではなく検索全体で捉えると、次の図のように、Google自体のシェアは依然95%と圧倒的に高く、セッション数自体も2024年11月と2025年11月比で102.6%と増加しています。並行して、先の図から分かるようにAI検索のシェアが伸びている状況です。
ユーザーの行動自体は、AIが出てきて、間違いなく変化しています。ですがGoogleの検索自体が減っているかというと、決して減っていないというのがひとつの特徴です。むしろ、増えているというのが今の実態かもしれません。
※1
- OpenAI projects 220 million paying ChatGPT users by 2030, The Information Reports,Reuters 2025/11/26
- OpenAI CEO says ChatGPT back to over 10% monthly growth, CNBC reports,Reuters 2026/02/09
- ChatGPT users send 2.5 billion prompts a day,TechCrunch,2025/07/21
※2
本記事の取材時点では、OpenAIから広告開始の発表はなかったが、2月9日(米国時間)に、米OpenAIはChatGPTに広告を導入するテストを米国で開始すると発表した。
- 『「ChatGPT」の広告機能、米国でテスト開始 ~無料と「Go」プランで掲出』,窓の杜 2026年2月10日
「情報を探す」から「答えを導いてもらう」へ。AI検索が起こすパラダイムシフト
押久保:では、続いてユーザーの検索行動の変化をお聞きします。私自身も、単語を組み合わせるこれまでの検索と違って、AI検索を前提に話し言葉で問いかけることが増えています。そういった、検索の“質”の変化についてはどうでしょうか?
杉原:検索行動は、今まさに大きく変わり始めています。端的にいうと、「情報を探す(Searching)」から「答えを導いてもらう(Asking)」への変化というパラダイムシフトが起こっています。
従来は、たとえば「東京 天気」のように単語を投げかけて、情報の入り口を探していました。検索エンジンに必要そうなワードを、人間の側が並べて解釈してもらう。いわば、人間が機械に合わせていたんです。
それがAI検索になると、検索のほうが、人間に寄ってきてくれます。こちらが自然な日本語で「明日の東京の天気は?」と聞けば、ダイレクトに答えを提示してくれます。「明日、東京でデートなんだけど、雨でも楽しめる場所は?」など、背景や目的まで書いておけばそれに対応してくれるので、質問のロングテール化が進んでいます。
押久保:まさに、私がユーザーとして実感している変化ですね。
杉原:そうですよね。また、文脈が維持されるのも大きいです。先の「雨でも楽しめる場所は?」の質問にエリアや施設の候補が挙がったら、「その近くでおいしいイタリアンの店は?」と聞くと、それにも的確に答えてくれます。
つまり、対話型になりつつあるのです。検索行動がビッグワード検索、複合ワード検索を経て、対話を通して「自分の状況に合った答えをAIと一緒に作る行為」へと根本的に変わり始めています。
柴山:実際に、AI検索のほうがクエリは長くなっています。英語圏のデータにはなりますが、Google検索では平均3.4語ですが、Google AI Modeだと10.4語。ChatGPTだと平均31.2語で、文章での投げかけになっていると読み解けます。
杉原さんが指摘された「文脈」、コンテキストが重要なキーワードになっていると私も思います。また、たとえ誤字があってもAIが適切に解釈してくれますから、音声入力との相性もすごく良くなるでしょうね。
AI検索が起こす3つの大きな変化。意思決定がショートカットされる
押久保:今、杉原さんが指摘された「対話型」への変化によって、ユーザーの意識や行動はどう変化していますか?
杉原:大きく3つの変化があります。まず、「探すための努力」が減ったこと。思った通りに質問すればいいので、正しい検索ワードを考えることから、自分の状況や目的を伝える行動へと移っています。
次に、意思決定が前倒しされていること。検索を通して、情報を整理してから決めるのではなく、AIが整理した上で選択肢を出してくれるので、AI検索をする時点ですでに決め始めている状態になっています。
3つ目は、行動までの距離が格段に短くなったこと。AIとの対話の中で、たとえば「そのまま予約しますか?」といった形で次の行動に自然につながるので、情報取得というよりもはや「行動を進めるプロセス」になりつつあるのではと思います。
押久保:なるほど。そうした変化の中で、何を押さえるべきでしょうか?
杉原:重要なのは、AIへの期待値が上がっていることです。一度、文脈を理解してもらえる体験をすると、表面的な答えでは満足できなくなってしまうんですね。目的を考え、意思決定を進めて、行動するまでの一気通貫のサポートを期待するようになる。AI検索は、考えて決めて動くための“相棒”に変わり始めていると思います。
柴山:意思決定までのショートカットが進んでいる点は、先の『AI検索白書』の調査でも表れています。旅行を想定して「何にAI検索を使うか」を質問したところ、主に情報収集に使う意見が多かったです。情報はAIで一気に調べて、人間は意思決定をするだけの状態になるような様子が見て取れました。
購入まで任せられるエージェント型のAIも広がりつつあるので、ECの作り方なども大きく変わってきそうです。
使い分けが進む? AI時代における「検索」のリアル
押久保:そうなると、今日の対談のメインテーマですが、いわゆる従来型の検索はなくなるのでしょうか?
杉原:私の意見としては、なくなることはないと思います。ですが、役割は分かれてくる。使い分けが進むでしょう。
従来の検索が強いのは、公式情報や事実関係の確認、特定商品やサイトの情報取得などです。施設の営業時間や料金を知りたい場合、キーワード検索のほうが速く、確実ですね。一方、対話型が強いのは、やはり目的が詰め切れていなかったり、条件が複数あって比較や判断に迷ったりするときだと思います。
「探したいものが決まっているか」それとも「考えながら決めたいか」。ユーザーも、そのように感覚的に使い分け始めているのではないでしょうか。
柴山:納得です。私も、従来の検索はなくならないと考えています。あいまいな問いは、AI検索への移行が進むと思いますが、目的が明確なときは、キーワード検索はやはり便利ですね。
また従来の検索においても、進化であり優れていると思うのは、Googleの「AI Overviews」を含めたユーザーエクスペリエンス設計です。最初は既存のGoogle検索から入り、AI Overviewsが概要を表示する。対話までしなくてもいいけれど、少し大枠を把握したいニーズというのはあるので、それをOverviewsが満たしています。そして、それでも足りなければそのまま検索の画面内でAIモードでの対話に移ればいい。ユーザーにとって非常に合理的な動線設計だと感じます。

20年のAI研究をベースしたフルスタックAIアプローチの強み
押久保:OverviewsとAIモードの構造は、たしかに合理的ですね。一時期はGoogleが劣勢と言われていましたが、Overviewsも含めて巻き返しつつあるという声が増えています。この半年~1年で、どのようなゲームチェンジが起きているのでしょうか?
杉原:少し前はたしかに劣勢の見方もありましたが、やはり20年のAI研究は大きいです。LLMの登場で新興勢力にも機は熟したものの、Googleにすぐに追いつくのは容易ではありません。以前から、私は「言葉を制するものはビジネスを制する」と言ってきましたが、世界最大数のユーザーから集まるクエリや意図などのデータ蓄積は圧倒的です。
私が在職していた2008年、創業者が語った「検索結果は、究極的には1つしか提供したくない」という言葉が今も強く印象に残っています。彼らは当初から、現在のAIのような未来を予見し、設計していたのだと感じざるを得ません。
その強さを支えているのは、CEOのピチャイ氏が何度も掲げている「フルスタックのAIアプローチ」です。チップからサーバー、膨大な電力を賄うインフラ、そしてモデルから製品まで、すべてを自前で一貫して構築している。実はOpenAIやMetaといった競合ですら、Googleのインフラを“間借り”している状態なんです。この自社で土台を持っている強みは、今後さらに効いてくるでしょう。
押久保:たしかに……。そう聞くと、そもそも立ち位置が違うと捉えられますね。
杉原:はい。従来の検索においては、すでにGoogleは“言葉を制した”と思います。その上でAIが一般化する時代にも、同様に圧倒していくのではないでしょうか。
選ばれる理由は何か?「良いプロダクトを作ること」が最大のマーケティング
押久保:では、生活者が「探す」から「答えを得る」ように検索を使う今、企業はどう変わるべきでしょうか?
杉原:企業は「生活者の問いにどう答えるか?」を本気で設計する必要があります。たとえば、従来の「見つけてもらう前提の発想」は通用しません。検索にまつわるマーケティングは、以前は検索連動や比較サイトへの出稿など、広告露出の設計が主でした。ですが対話型になると、AIが提示する選択肢に入らないといけない。つまり「選ばれる理由」を明確にすることが不可欠です。
「説明責任」も、捉え直さないといけないですね。AI検索では、企業が伝えたいスペックをすべて伝えてはくれません。自社商品は誰にとって向いているか、どういう条件なら選ぶべきかを言語化すべきです。
さらに、マーケティングとプロダクトの距離が縮まっていることにも留意したいです。いくら広告コピーにこだわっても、対話型の世界では実際の体験や満足度が推薦につながるので、良い商品を作ること自体が最大のマーケティングになるのです。
柴山:まったく同意です。Googleを中心とした検索の世界は、そもそもAI登場以前から、ユーザーにより良い情報を速く届けるため、検索アルゴリズム・システムのアップデートを行ってきていると理解しています。
Googleはコンテンツに対して「E-E-A-T(Experience:経験、Expertise:専門性、Authoritativeness:権威性、Trustworthiness:信頼性)」を提唱していますが、AI時代にはこれがさらに際立っていくのでしょう。加えて、AIクローラーが読み取りやすいよう、商品の利点、欠点をもきっちり言語化し、コンテンツ化することが重要になってくると捉えています。

問われる言語化力。誰のための存在かを明確にする
押久保:最後に、マーケターはどのようなアクションを取るべきか、メッセージをお願いします。ここまで変えるべき点をうかがってきたので、変えてはいけない点があれば、お教えください。
杉原:変えてはいけないのは、生活者の価値を起点に考えること、信頼を長期で積み上げること、そして誰のための存在かを明確にすることに尽きると思います。自分たちは、誰のどんな課題を解決しているのか。その軸がぶれると、AIにもその先にいる生活者にも見透かされてしまいます。
マーケターにとって大事なのは、生活者の問いを理解し、価値を言語化することです。その上でAIを使いこなせば、AIは強い味方になると思います。
柴山:よくわかります。私自身、生成AI時代において、言語化の重要性をより意識するようになりました。言語化があいまいだと、AIがアウトプットしたとしても、内容があいまいになります。
これまでも、自分たちの商品や事業に対する解像度が高いことは重要でしたが、今後はAIよりも深い理解と言語化が求められるでしょう。誰の、何のために効果的なのかを論理的に明確にすることが、AIが理解でき、生活者に選ばれる商品になるための重要な要素だと思います。
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