かつては“人の数”で戦っていた銀行ビジネス AIでどう変わったか
ナインアウト 石野真吾氏(以下、敬称略):御社は早い段階からAI活用に舵を切ってきました。銀行、そしてグループとして、AIをどう捉えているのでしょうか。
三井住友フィナンシャルグループ 磯和啓雄氏(以下、敬称略):これまでの銀行のビジネスは、どちらかといえば「優秀な人を何人採用するか」という“人の数”で勝負する側面がありました。個の戦闘力の総和で戦っていたわけです。しかし、AIによって個人のノウハウがいきなり共有できてしまう。これは我々のビジネスそのものを大きく変える可能性があることは間違いありません。
ただし、AIはここ数年で一気に浸透した技術であり、まだまだ荒削りなところがあります。以前ほどではないですがハルシネーションの課題もありますし、今でも「なぜこの答えが出てきたか」を論理的に説明することは難しい。とはいえ、早くAIを取り入れなければ明らかに競争力の差が広がる。そのため、私はとにかく「やりたい人に早くやってもらう」という方法で進めてきました。
2024年10月に設けた500億円のAIへの投資枠は、私が予算のオーナーとなっています。何を優先するのかという議論は後回しにして、やりたい人にどんどんプレゼンしてもらい「おもしろい。やってみよう」を繰り返してきました。結果として、1年で60件ほどのAI関連プロジェクトが生まれています。
石野:多くの企業が意思決定に苦労する中、スピードを最優先にした大胆な取り組みですね。どのような意図があったのでしょうか。
磯和:近しい業務であっても、リテール部門とホールセール部門では異なるパートナーのAIを導入している例もありますが、これは“あえて”です。特定のパートナーに依存することで、意思決定のスピードを下げたり、柔軟性を欠くことは避けたい。いろんな技術が次々と出てくる時期ですから、最初はやりたい人にどんどんやってもらうことを徹底しました。
石野:アグレッシブに投資を進める中で、特に意識されていた点はありますか。
磯和:まずはAIに全員が親しむことです。昨年行った取り組みに「AI-CEO」の開発があります。これは行員から上がってきたアイデアなんです。中島達社長の今までの発言などをすべてAIに学習させて、全員が社長にすぐ相談したり会話したりできる世界を作るとおもしろいんじゃないかと。
社長に相談できるとなったら、みんな一度は触りますよね。我々も「経営会議で説明したら社長はなんというのだろうか」と試してみたりする。そういうもので良いのです。言い方は悪いですが、行員やグループ会社の社員全員が早くAIに馴染めるように、手当たり次第にやれることはやってきました。それによって、この1年でAIをまったく使わない人はほぼいないレベルにまで浸透しています。すると、おのずと「So what?(次は何をするのか)」というフェーズに入っていくわけです。
