「So what?」への答えは 生成AIの幻滅期を乗り越えるモードチェンジ
石野:生成AIの「幻滅期」を意識する声も出始め、期待と現実が見えている中、どのように体制や考え方を切り替えていったのでしょうか。
磯和:今度は組織として優先順位を立てて取り組んでいくフェーズに移行し、部門を跨いだ「クロスファンクショナルチーム(CFT)」を構築しました。既存の「部」という枠組みを超えた、組織横断のチームです。国内だけでなく海外も含めてやりたい人に手を挙げてもらい、世界中で200人近い人をアサインしました。ここで、これまでの「なんでもやる」から「優先順位を議論する」体制へと切り替えのです。
これと並行して、昨年「kAIgentic(カイジェンティック)」というAI開発の新会社をシンガポールに立ち上げました。大きな社内の優先順位はCFTで決める。それを具体的に実現するための企画や開発は、kAIgenticで行う。日本でも引き続きアイデアは集め続けますが、今後はこの体制で、より戦略的に優先順位をつけていくことになります。
kAIgentic
2025年8月に、三井住友フィナンシャルグループと同社AIトランスフォーメーションアドバイザー アーメッド・ジャミール・マザーリ氏が共同で設立した新会社。グループ内のAIトランスフォーメーションを推進するとともに、将来的には他社へのAI機能の提供・支援を行う。
石野:米国の大手金融機関のAI活用事例を見ると、モニタリング業務やコンプライアンス対応、コールセンター業務など、まずは業務効率化やリスク低減から着手しているケースが多い印象です。そうした中で、御社では優先順位をどう設計し、「やるべきこと」と「今はやらないこと」をどのような基準で見極めているのですか。
磯和:もちろん、効率化や業務改善には取り組んでいます。ただ、50件、60件と取り組みを積み重ねる中で、その限界もはっきりと見えてきました。不思議なもので、業務が少し楽になる程度の簡素化なら、みんな喜んでやるんです。ところが、一歩踏み込んで「自分の仕事そのものがなくなる」という話になった途端、急に抵抗感が生まれる。たとえば、AIによる提案書作成は、既に実用レベルの精度にあります。それでも「ここが違う」「あれが問題だ」と、できない理由ばかりが並んでなかなか実装が進まない。 結局、単なる作業の簡素化の延長線上では、人間の本能が邪魔をするんです。
石野:AIを活用して生産性は上がっても、売上が伸びないという課題は他社でもよく伺います。
磯和:やはり、本当の意味での競争力や価値創造につなげるためには、既存ビジネスの枠組みそのものを変えていかなければなりません。我々はこれまで、熟練した人間がその数で対応できる範囲にリソースを絞り込んできました。いかに効率的に収益が上げやすいお客様をセグメント分けするかが重要だったのです。
法人ビジネスでいえば、日本に300万社ある法人のうち、我々が担当を設置しているのは5~6万社に過ぎません。これがAIやデジタルを使うと、真逆のことができます。去年リリースした「Trunk」という商品は、今まで担当がいなかった領域へビジネスを広げにいくためのサービスです。「絞り込んできた」ターゲットを、AIを使って「広げにいく」。ビジネスそのものの骨格を変えることに、しっかりと取り組んでいくべきですね。
