CAIOの必要性 背景にある“イノベーションのジレンマ”
2025年7月に、AIネイティブカンパニーへの転換を全社の最優先事項として掲げたfreee。旗振り役として、2026年1月にCAIOを新設した。就任したのは、創業期から同社の技術をけん引してきた横路隆氏だ。
その2年半ほど前から、同社はAI活用基盤の整備に着手していた。AIエージェントが業務を完了させるためのデータ基盤、そしてガバナンス体制を「粛々と準備してきた」と横路氏は振り返る。
「当社は多様な事業を展開しており、各部門で追っている数字も異なります。場合によっては、そのデータがどのような意味をもつのか誰もわからないケースもありました。データの背景やメタデータの整備、そしてデータを活用できる人材のトレーニングなど、時間はかかりましたが、今やっと形になってきています」(横路氏)
そんな中、既存サービスへのAI機能の拡充はもちろん、社員のAI活用も進んでいる。対話型AIは99%の社員が日常的に活用しており、次の段階としてAIエージェントによる各業務の自動化に歩みを進めている段階だ。
こうした下地がある一方で、なぜ新たにCAIOという独立した役職・組織が必要だったのか。同氏は理由の一つに「イノベーションのジレンマ」を挙げた。既存のSaaS開発とAIの可能性の探索を一つのチームで行おうとすると、すでに売上を上げている既存サービスがどうしても優先される。これは他社でも同様だろう。しかし、AI変革は全社に大きく関わる動き。横路氏は「今までとはまったく違う、自己破壊的な側面すらある取り組みを始めるときは組織をわけるべきだ」と語る。
freeeのCAIOが担う領域は大きく二つだ。プロダクト・ソリューションのAIネイティブ化による顧客価値の創出、つまり社外向けのアプローチが6割。「Done for You」をキーワードに、ユーザーの代わりにAIが仕事を完了させ、その証跡を確認できる状態を目指す。
残る4割が社内向けだ。全社オペレーションの変革と生産性向上、人材育成や人事評価制度の再設計を含むAIネイティブ組織への転換がミッションとなる。整理すべきタスクが山積みの印象だが、もちろんすべてCAIO組織が単独で動くわけではない。営業部門、人事部門、財務部門などの執行役員らと連携し、各部門のAI戦略について体制整備から予算策定までともに対応するという。
「CAIO体制に移行したことで、まずプロダクトリリースのスピードが大幅に上がった」と横路氏。同社は3月26日にMCPサーバー「freee-mcp」のリモート版をリリースしたが、実は同日に他社がリモートMCPサーバーを発表し好評を得ていたという。その反応とニーズの高さを受け、横路氏が「今日リリースしよう」と指示。実際、3時間後にfreee-mcp(リモート版)のリリースが実現した。
このようなAIネイティブ化への取り組みを速く進められる背景には、組織体制の工夫がある。同社ではデータとセキュリティの両機能をCAIO傘下に配置。リスク評価と意思決定が同じテーブルで同時に行われる体制を整えた。今後はAIエージェントの開発や活用も活発化すると予測できるが、その前にデータが統合されていなければ、AIがコンテキストを把握できない。また、AIの権限設計が曖昧であればセキュリティリスクが生じる。これらの基盤をCAIO組織がコントロールすることで、各ユースケースの実現に向けて機動的に先回りできる仕組みを構築しているのだ。
