課題だった執行役員のAIリテラシー 乗り越えた新施策とは
一方で、すべてがスムーズに進んでいるわけではない。乗り越えるべきハードルもある。たとえばトップ層の意識改革だ。横路氏は「執行役員の中でもAIリテラシーのレベルにバラつきがあった」と話す。AIのメリットは理解しているものの、自分自身が活用スキルに自信がなく、本当に自部門の業務を変えられるのだろうかと焦ってしまう——そう感じる執行役員もいたという。
「やはりトップがAIネイティブとは何かを体感して、腹落ちしなければ。ボトムアップでAI変革を進めるのは難しいでしょう。『アサインが重要』だと痛感しています」(横路氏)
現場でAIの活用事例は生まれても、全社に関わる重要なオペレーション変革への道のりは遠い。こうした状況を打破するために横路氏が立ち上げたのが、「AIデモクラシー」と銘打った施策だ。
これは、各執行役員が自分の担当領域において「このオペレーションだけは必ずAIネイティブ化する」と宣言し、エンジニアが伴走してその実現を支援するというもの。宣言は努力目標ではなく、2026年3月末には各執行役員から成果が社内で共有された。どの業務がどのようなインパクトを生んだのか、AIネイティブ化によって何が変わったのかを、執行役員自身が自信を持って語れる状態になることが目的だ。現在、約20名の非技術系執行役員の全員が、AIツールを自ら使いこなし具体的な事業インパクトを生み出し始めている。
「まずは自分の成功体験を持ってほしい。そのためAIデモクラシー施策としては、ビジネスインパクトが大きい、かつ手を付けやすそうな業務を私も一緒になってピックアップしました。また、執行役員自身も2026年1月から実際に手を動かしてAIエージェントの本格的な活用を始めています。そこまでやると、トップダウンで現場に対して『それもAIで解決すればいい』と提案できるレベルになる。目線が上がり、目標設定の質も変わります」(横路氏)
CAIO組織が担うのは、この伴走の先回りだ。各執行役員の宣言からユースケースが明確になると、その実現に必要なデータ基盤の不足や、セキュリティ上のブロッカーがあぶり出されてくる。それらをCAIO組織が機動的に解消していく流れだ。セキュリティとデータの機能を自組織に持つ設計がここでも活きる。
現場へのAI浸透の鍵「人事制度」 評価の仕組みをどう作るか
成功体験はトップ層だけでなく現場にも必要だ。同社では、現場社員向けにハッカソンを実施するなど地道な活動を続けてきた。加えて、一人ひとりのAIレベルをマネージャーと本人が定量的に確認できる仕組みもある。たとえばエンジニアであれば、コーディングエージェントの使用の有無に加えて、書いたコードの何割がAIによるものか、それによって得られたアウトプット数がどう増えているのかを可視化しているという。
目標とするAI活用のレベルは、社員がマネージャーとともに半年のスパンで定める。目標達成に向けた成長を支援する仕組みだ。「今後はAIレベルを人事評価に組み込みたい」と横路氏は話す。
「今のジョブグレードも、AI前提で作られたものではありません。しかし、事業インパクトの出し方はAIによって変わるはずです。評価基準の見直しは必須でしょう。AIネイティブカンパニーで成果を出せる人が評価される仕組みを、CAIOとして人事部門と一緒に作っていかなければなりません」(横路氏)
