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「揺らぎ」が知能の本質を照らす──物理・脳科学・社会の3領域からAIの先を問う

「第6回 Beyond AI 研究推進機構 国際シンポジウム」レポート

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 東京大学とソフトバンクなどが2020年に立ち上げた産学協創事業「Beyond AI研究推進機構」の第6回国際シンポジウムが、2026年2月10日に東京大学本郷キャンパス福武ホールで開催された。テーマは「Beyond AI──より新たな科学へ」。物理学・脳科学・社会科学の3つの学術分野から成果が報告された。

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物理法則が「学習なしの知能」を生む

齊藤英治氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授)/茂木健一郎氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所 上級研究員東京大学大学院 客員教授及び特任教授)/田畑仁氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

 最初のセッション「知能の基礎物理学の構築を目指して」では、東京大学大学院工学系研究科の齊藤英治教授と田畑仁教授が研究成果を発表し、脳科学者で東京大学客員教授でもある茂木健一郎氏がモデレーターを務めた。

 齊藤教授はまず、物理学の本質を振り返った。ニュートンがリンゴの落下と星の運動を同じ法則で説明したように、物理学は一見無関係に見える現象の背後に普遍的な法則を見出す学問だ。その方法論を知能に適用したらどうなるか──それがこのセッションの出発点だった。

 齊藤グループが提示した成果は、従来のAIの常識を揺さぶるものといえる。現在のAIは大量のデータを使って学習し、誤りを減らす方向へパラメーターを調整していく。だが同グループは、そうした明示的な学習プロセスを一切用いずに、物理系の揺らぎのなかで自発的に数字認識の機能を獲得させることに成功したという。

 「揺らぎはただのノイズではない。それが知能の機能を発現させる」──齊藤教授はこう語り、現在のAIアーキテクチャーを問い直す。生物の脳が常にノイズに満ちていることを考えれば、むしろこちらのほうが自然に近いモデルというのだ。学習と推論を分けず、物理法則に従って動くだけで認識機能が立ち上がる。この「物理的知能」のアプローチは、大量の学習データと膨大な計算リソースを前提とする現在のAIとは根本的に異なる方向性を示しているといえそうだ。

 田畑グループが提示したのも、同じく「揺らぎの活用」という思想だ。コンピューターが大量の電力を使ってノイズを排除し、精密な演算を実現するのに対し、脳はその逆のアプローチをとっている。環境のノイズをエネルギー源として積極的に取り込み、少ない消費エネルギーで情報処理を実現する。田畑グループは「確率共鳴」と呼ばれるこの原理を、画像処理や組み合わせ最適化問題の実験で実証した。特定の条件下でノイズを加えることで、むしろ処理精度が上がることを示している。

 セッション全体を振り返り、モデレーターの茂木氏は齊藤教授のメッセージを強調した。「AIに普遍性を与えることが物理学の役割だ」。方向は異なるが、ノイズの積極的活用という根幹の思想を共有しながら、2つのグループが量子揺らぎと熱揺らぎの両面から知能の発現に迫る構図だ。現在のAIは巨大化の一途をたどっているが、その先にはむしろ、単純な物理法則に立脚した知能のアーキテクチャーがあるのかもしれない。

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脳が秘める「眠れる能力」をAIで解き放つ

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この記事の著者

京部康男(AIdiver編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineとAIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

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