米国時間2026年10月25日に開幕した「Oracle AI World」と「SuiteWorld」。ここでは、26日の各基調講演で発表された新プロダクト・機能をまとめる。詳細は後日レポート記事を掲載予定だ。
「System of Outcomes(成果)」を掲げるオラクルの3大発表
「System of Record」から「System of Outcomes」へのシフトを打ち出したオラクル。あくまでもタスクを完了させるのが人間であった従来のシステムから、人間が目的と権限を定め、成果に向けてAIが自律的に業務を推進するシステムへの進化を掲げた。その思想のもと基調講演で発表されたのが、次の3つだ。
主な新発表
- Fusion Claw:ガバナンスを備えた自律型AIの実行基盤。財務分析や物流計画などの高度な専門業務を完遂する
- Fusion Companion and Fusion Agentic Home:ユーザーが「目的」を語るだけで業務を自動実行・管理するAI統合ポータル。ChatGPTなどの外部AIツールからも仕事を委任できる ※提供開始時期や価格は、現時点で公表されていない
- FSCR(Oracle Fusion Setup and Configuration Registry):システム導入・設定作業の多くをAIで自動化する、公開Gitリポジトリ上のスキル基盤。IT部門やSIパートナーの導入負荷を削減する
特にAIdiverの読者向けには、「Fusion Claw」「Fusion Companion and Fusion Agentic Home」の2つにフォーカスしたい。
複雑な専門業務を自律的に完遂する「Fusion Claw」
裏側で高度な専門業務を自律処理する「実行レイヤー」として、2026年9月に先行発表されていたFusion Claw。今回はデモとともに、財務、人事、サプライチェーン、営業・サービスへと広がる適用領域が示された。基調講演後、アプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのクリス・レオーネ(Chris Leone)氏が「作業を支援する存在だったAIが、仕事を完遂する時代になる」と語っていたが、その核となる発表だといえる。
一方で、自律性にはリスクもともなう。この1~2ヵ月で、領域を問わずガバナンスやセキュリティへの関心が大きく高まった。オラクル 共同CEOのマイク・シシリア(Mike Sicilia)氏も冒頭で、信頼があってこそ重要な局面でもAIに仕事を任せられ、その恩恵を最大化できると、ガバナンスの重要性を強調した。
そうした中、Fusion Clawは「AIによる計画・推論」と「実際の計算処理」を分離した独自構造を採用している。AIの推論は知性が必要な場面に限り、大量の処理は効率的な決定論的計算に任せることで、コストを抑えながら精密な処理を実現する。さらに、企業ルールを超えないよう制御し、実行結果には監査可能な記録として「Outcome Receipt(成果受領証)」を発行する仕組みだ。
使い慣れたAIで基幹業務を動かす「Fusion Companion and Fusion Agentic Home」
Fusion Clawが裏側で複雑な計算や処理を完遂する実行レイヤーであるのに対し、ユーザーが目的を指示・管理する「受付・対話窓口(フロントUI)」の役割を担うのが「Fusion Companion」とポータルの「Fusion Agentic Home」である。Fusion Agentic Home、あるいはChatGPTなどの対応AIツールを通じて自然言語で目的を伝えると、Fusion Companionが業務のコンテキストやユーザーの権限をもとに目的を解釈し、必要なトランザクションやワークフロー、承認、AIエージェント、エージェンティック・アプリケーションを選んで連携させる。普段使い慣れたAIツールから基幹業務を動かせる点で、エージェンティックAIの活用ハードルをより下げるものだ。
シシリア氏は基調講演の締めくくりで、AIの真価はマシンが何を学んだかではなく、人間がマシンを使って何を成し遂げられるかにあると語った。複雑な画面操作をなくし言葉で仕事を任せられる環境をつくることが、人間中心の働き方をもたらす鍵だと、Fusion Companion and Fusion Agentic Homeで示した。
NetSuiteは“新生ERP”を宣言 「AI as the UI」へ
SuiteWorldの基調講演では、創業者兼エグゼクティブ・バイスプレジデントのエヴァン・ゴールドバーグ(Evan Goldberg)氏が、クラウドERPのNetSuiteにおけるAI戦略を明かした。同氏は「画面操作に苦心させられてきた従来のERPは終わりを迎え、AI時代に向けて新しく生まれ変わる」と宣言。AIがインターフェースそのものになる(AI as the UI)と語り、人間に代わって自律的に業務を遂行する「Autonomous Suite」への進化を提示した。
主な新発表
- SuiteSkills:財務分析や収益漏れ検知など、45以上の業務ノウハウをAI化。普段使っている外部のAIサービスからも実行可能
- AI Portlets:自然言語で集計グラフや実行アクションなどの「画面パーツ」をダッシュボード上に動的生成・配置
- AI Workspaces:人・AIエージェント・承認プロセスを一カ所に集約した「統合作業空間」。「自律型決算(Autonomous Close)」などを実現
- SuiteFlow Agent:「Ask Oracle」を介した自然言語指示で、発注書番号の必須化や入力制約などのワークフロー作成・設定を自動化
- SuiteAgent Studio:指示・ツール・トリガー・実行ロールを調整し、独自の自動化エージェントを簡単に作成・有効化できる開発環境
- SuiteAgent Management Workspace:委任されたエージェントのアクセス権一元管理、活動監視、System Notesによる変更追跡を行うガバナンス管理空間
- SuiteExpress:AIと、顧客ごとの業務知識およびNetSuiteの導入ノウハウを組み合わせ、ERP導入期間を数週間、場合によっては数日に短縮する新手法(当初は米国・カナダのソフトウェア業界向け)
- Industry-specific SuiteAgents:ソフトウェア、製品、建設、ヘルスケアなど、業界特有の課題に対応するAIエージェント
数ある発表の中で、ビジネス現場のワークフローを大きく刷新する注目機能として「SuiteSkills」、および「AI Portlets」「AI Workspaces」のポイントを整理したい。
業務のコンテキストをAIに与える「SuiteSkills」
ゴールドバーグ氏は、「業務の文脈(コンテキスト)がないAIの推論は、単なる『自信満々の当てずっぽう』に過ぎない」と指摘。AIが出す回答をビジネスで本当に信頼するためには、単にデータを読み込むだけでなく、「そのデータをどう解釈し、どう処理すべきか」という業務のコンテキストが不可欠であると強調した。
これまで提供されてきた「NetSuite AI Connector Service」は、外部のAIにNetSuiteのデータへのアクセスを与える役割を果たしてきた。しかし、データがあるだけでは、AIは「そのデータをどのような手順で分析・処理すべきか」までは判断できない。この課題を解決するのが、新たに発表された「SuiteSkills」だ。
決算分析や収益漏れの検知、在庫の不均衡の調査など、45以上の業務ノウハウをパッケージ化したスキルセットであるSuiteSkills。最大の特徴は、1万3000社以上が採用する「NetSuite AI Connector Service」を介し、ユーザーが普段使い慣れている外部のAIサービスから呼び出せる点にある。もちろん、NetSuite Next内蔵のAIアシスタント「Ask Oracle」からも利用可能だ。自社のアクセス権限やガバナンスがそのまま適用され、対話だけで確実な分析とアクションを自動実行できる。
従来の画面操作を抜け出す「AI Portlets」「AI Workspaces」
従来のERPのようにメニューを探してクリックし続ける操作を排し、新しいUIを実現するのが「AI Portlets」と「AI Workspaces」である。
自然言語による指示に基づき、ダッシュボード上に動的な分析グラフなどの「画面パーツ」を即座に配置できるのがAI Portletsだ。そして、AI WorkspacesがこれらのパーツやAIエージェント、必要な情報、承認手続きを1ヵ所に集約し、プロセス全体を一元管理する。
たとえば「自律型決算(Autonomous Close)」ワークスペースでは、会計期間の終了を待たずに問題をリアルタイムで解消し、「決算所要日数ゼロ」の実現を目指す。単なるUIの効率化にとどまらず、複雑な業務そのものを自律的に完遂させる環境を提供する。
なお、発表された機能のうちSuiteSkills、AI Portlets、AI Workspaces、一部の業種別SuiteAgentsは、NetSuite Nextの提供市場ですでに利用できる(NetSuite Nextの提供は北米から始まっており、日本での提供時期は公表されていない)。SuiteFlow AgentやSuiteAgent Studioなどは、今後のリリースで提供される。
ガバナンス/セキュリティを担保し、さらにAIの自律性も確保する。一見すると相反する難しい課題だが、今回の発表では実行レイヤーの分離や蓄積された業務コンテキストの活用といったアプローチが提示された。「作業の支援」から「業務の完遂」へとAI活用の方向性が示されるなか、実際の企業環境においてどこまで実効性と安全性を両立できるかが、今後の焦点となりそうだ。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
AIdiver編集部(エーアイダイバーヘンシュウブ)
「AIdiver」(エーアイダイバー)は、株式会社翔泳社が運営する、企業およびビジネスパーソンのAIの利活用にフォーカスしたメディアです。経営、ビジネス、日々の業務をAIで変革したい「AIリーダー」の皆さまに役立つコンテンツを発信します。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
