博報堂DYホールディングスのAI先端研究組織であるHuman-Centered AI Institute、日立製作所、GMOペパボ、スマートガバナンスの4社は2026年7月21日、一般社団法人「人間中心のAIコンソーシアム」を共同で設立した。学術界・法曹界・産業界の有識者約30名が発起人として参画し、産学連携による中立的・横断的な議論を行う団体として活動を開始する。同日に開催された発表会では、共同代表理事を務める博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森正弥氏、慶應義塾大学法科大学院 教授の山本龍彦氏らが、設立の狙いと問題意識を語った。

「効率化・自動化」から「創造性の進化」へ
森氏は、本コンソーシアム設立の狙いを次のように語った。
「AIを自動化や効率化のためだけに使うのではなく、いかに人の主体性を尊重し、創造性を高めていくかが重要だ。そして、生活者と社会をいかに豊かにしていくか。そのためのAIの開発、活用、管理について、研究と実践を追求していく」(森氏)
森氏によれば、人間中心のAI(HCAI)という言葉自体は新しい概念ではないという。1990年代の人間中心設計を起点に、1999年にISOで定義され、UI/UXの設計原則として国際的に定着した。その後、クラウドやビッグデータの普及とともにAIが社会の基盤として使われるようになる中で、安全性・公平性・透明性を担保するガバナンスの観点が加わった。日本でも、2019年に内閣府がAI社会の基本指針として「人間中心のAI社会原則」を示している。そして現在は、人の主体性を尊重し、創造性を高める観点で人間中心のAIが議論されている段階だ。
しかし、森氏は「人間中心のAIが国際的に重要視されている中、日本ではこの概念がまだ十分に浸透していない」と指摘する。この状況から本コンソーシアムでは、人間中心のAIの考え方を、人々や社会を支えるための指針としてアップデートするとした。
活動方針として森氏が強調したのが「生活者視点」だ。AIのサービスプロバイダーやベンダーといった提供者側の視点だけでなく、それを利用する生活者の視点を持った業界団体を目指すという。生活者調査を通じて社会に受け入れられやすいAIを推進するとともに、創造性を高めるユースケースを開発する。こうしたユースケースを踏まえたサービス設計やガイドライン整備、そして政府・関連業界団体・企業への情報提供や働きかけを行っていく方針を示した。
需要なのは人間の「尊厳」 AIとの関係を問い直す
続いて山本氏が、学術・ガバナンスの観点から、人間中心のAIを再定義する必要性を語った。山本氏は、AIが単なる業務効率化のツールにとどまらず、人間の意思決定や価値判断そのものに影響を与える存在になっていると改めて指摘した。その上で、技術の性能や利便性を評価するだけでなく、「人間とは何か」という根本的な問いが必要になると話す。
特に重要になるのが「人間の尊厳(ディグニティ)」とAIの関係だという。実例として、AIの意思決定プロセスに人間を組み込む「ヒューマン・イン・ザ・ループ」のリスクを挙げた。
「ループの中に組み込まれた人間は、AIの判断に主体的に関与できず、結局は責任を取るためだけの存在になっていくのではないか。あるいは、AIを守るために人間が責任を取らされる状況になるかもしれない。こうした問題は、人間中心のAIを考える上で避けては通れない」(山本氏)
なお、人間中心のAIコンソーシアムは4つの分科会に分かれており、山本氏が座長を務めるHCAI概念分科会では、人間の尊厳を中核に据え、法学・哲学・倫理学・歴史学・情報科学を横断した基礎研究を推進する。また、健全な情報空間・環境の再定義を目指す。
「これらの研究成果を統合し、具体的なAI設計や制度設計にまで応用できるフレームワークとして提示していきたい」(山本氏)
そのほか、各分科会の概要は次のとおり。
- 生活者調査分科会(座長:森正弥氏、副座長:シンシアリー 代表取締役/Women AI Initiative Japan 代表理事 國本知里氏):生活者のAIに関する意識調査に向けたアンケート設計・分析を通じ、生活者にとっての真の価値とウェルビーイングを発信する
- HCAI概念分科会(座長:山本龍彦氏、副座長:東京大学大学院 総合文化研究科 准教授 馬場雪乃氏):「人間中心のAI」の定義や理論的枠組みを学術的に深化させ、共通言語としてのフレームワーク整備に向けた検討を進める
- 創造性ユースケース分科会(座長:GMOペパボ 取締役CTO 栗林健太郎氏、副座長:Ballista 取締役 池尻雄督氏):人間とAIの協働による創造性・生産性向上を目指し、暗黙知活用など日本の強みを活かしたユースケースの検討や、実践的な共創プロジェクト(PoC)を企画・実施する
- AIガバナンス分科会(座長:スマートガバナンス 代表取締役CEO 羽深宏樹氏、副座長:日立製作所 ITデジタル統括本部長 兼 DX戦略本部長 安立大介氏):人間中心のAIを実現するための法的・倫理的課題に対応するルール作りや、企業が導入すべきリスク管理・ガイドライン策定に向けた検討を進める
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