なぜ今、AIエージェントは「資本」と呼ばれるのか
押久保:MicrosoftのCEO、サティア・ナデラ氏の投稿をはじめ、経営層の間で「人的資本とトークン資本」をめぐる議論が高まっています。経営に携わりながらAI開発の最前線に立つお立場から、この潮流をどう受け止めていますか。
柴山:Microsoftのトップが言うというのは、非常に大きいと思っています。ナデラさん自身は以前からこのことを考えていたはずですし、私も以前の連載で、トークンが人件費と並ぶ経営資源として入ってくるという話をずっとしてきました。ただ、この投稿を機に「トークンを経営資源として考える」ことが経営ゴトになった。それがまず大きいですね。
押久保:この半年で何が変わったのでしょうか。
柴山:生成AIが普及し始めた当初は、「生成AIは定額で使いたい放題」と思っている人が多かったのではないでしょうか。ところが、数時間ごとのリセット制限や週次の利用制限といった話が、あっという間に現実になった。使える量が限られてきて、ようやく「これは第二の人件費だ」と気づく。使いたい放題なら配分を設計する必要はないわけです。私たちは予想していましたが、それがまさに現実として降ってきたのが今の状況です。
柴山大(しばやま・だい)株式会社Hakuhodo DY ONE 常務執行役員。通信企業やWebメディア企業でインターネットサービスの企画開発、マーケティング、UI/UX責任者を担当したのち、2017年にnegocia株式会社を設立し代表取締役に就任。2019年にアイレップとの資本業務提携に伴い同社のテクノロジー領域を統括。2022年からはアイレップ取締役CTO兼博報堂テクノロジーズ執行役員として博報堂DYグループのAI開発を主導し、2025年より現職。デジタル広告領域を統括する。
トークンが経営マターになった「二つの理由」
押久保:そもそも、トークンが資本とはどういうことでしょうか。
柴山:まず前提を整理させてください。厳密に言うと、トークンそのものは資本ではないのです。使えば消費される、フロー型の経営資源です。
ナデラさんも、Token Capitalを「企業が構築し所有するAI能力」と定義しています。つまり、トークンという資源を投じて、エージェントやスキル、ワークフロー、評価データ、学習ループといった、再利用可能なAI能力を会社に積み上げていく。そのAI能力が「トークン資本」だと、私は理解しています。
その上で、なぜこれが経営の議論に格上げされたのか。理由は二つあると思っています。
一つは、経営的に有限であること。つまりコストがかかるということです。人もそうですよね。100人採用すれば能力は上がるけれど、コストもかかる。だから配分を設計する。トークンも同じ構造になった。AIの稼働量を、いわば「デジタルなヘッドカウント」として管理する必要が出てきた、という理解が一つです。
もう一つは、生成AIではなくAIエージェントだからこそ、資本化できるという点です。質問すれば答えが返ってくるだけの生成AIは、基本的に使って終わりのツールです。一方、エージェントは、目的を分解し、必要なツールを使いながら、複数ステップで仕事を進めることができる。さらに、その進め方をスキルやワークフローとして会社に蓄積できる。
評価と改善のループまで設計すれば、使うほど会社のAI能力が積み上がっていきます。完全な代替ではありませんが、人間の作業の一部を担うこともできる。それを経営層も、もっと言えば現場社員の一人ひとりが痛感し始めた。
この両面がそろって、トークンをどれだけ調達し、どこに配分し、その結果として何を会社の能力として残すのかを考えなければならなくなった。トークンという資源の配分が、AI能力という資本の積み上がりを決める。だから経営マターなのです。
押久保:貴社の経営レイヤーでは、ナデラ氏の投稿が出る前から議論されていたそうですね。
柴山:トークンの調達を戦略としてどう扱うかは、ChatGPTが世の中に普及し始めて以降、ずっと会話をしていたので、比較的冷静に受け止めていますし、備えも着々と進んでいます。今はAI活用を拡大する多くのグローバル企業で、トークン料金がアドオンされている状態です。
ある企業では、社員のKPIにAI利用率を先に入れたことで、1ヵ月分のトークン料金を1日で使ってしまったという話も聞きました。しかも中身を見ると、PDFをPowerPointに変換するような単純な処理まで、処理内容に応じたモデルの使い分けをせず、すべて高コストなモデルに任せていた。
割り当て設計のないままの利用促進は、資源を燃やすだけで資本は何も積み上がらない、ただのコスト増にしかなりません。予想された未来がやってきたな、という感覚です。
